タイとミャンマーの国境地帯に住むカレン族を訪ねたのは、一九九六年夏のことだった。
カレン族について語るには、ミャンマーの国情を知ることから始めなければならない。正式名称はミャンマー連邦という。以前はビルマという国名だったが、一九八九年六月からはミャンマーと呼称している。国民の大多数はビルマ人で、肥沃な平地はすべて彼らが占拠している。他の民族は山岳や丘陵地帯に留まり、社会的発展も遅れている。カレン族は、カレン州、イラワジ川デルタ、ペグウ山地やカヤ州に住む。
ミャンマーには、カレン人以外にも、シャン人、カチン人、チン人、パラウン人、ワ人、モン人、インド人、中国人などがいる。公用語はビルマ語だが、山岳少数民族を含めると、百以上の言語があるようだ。国民の大多数は仏教徒だが、山岳民族の多くはアミニズムを信奉している。最近はイスラム教徒も増えており、ヒンズー教も少なからずある。
キリスト教徒は、最も多いカチン族で八十〜九十パーセント、次いでチン族の八十パーセントである。アドニラム・ジャドソン(一七八八〜一八五〇)というアメリカ人宣教師がカレン族に福音を伝えたのは一八三一年だった。カチン族に福音を伝えたのは、救われた情熱に燃えるカレン族の伝道者だった。そして今度はカチン族がチン族にと、福音は伝播していった。カレン族全体では二十五パーセントがクリスチャンだそうだが、一〇〇パーセントキリスト教の村もあり、正確な数字を出すのは困難なようだ。
カレン族はミャンマー政府と敵対関係にあるので、村が焼き打ちに遭うなどして、その生活は困難を極めている。そのため、タイ国境沿いに避難し、難民キャンプで生活をしている者が多い。タイ国も、ミャンマーとの関係が悪化していた時は防波堤として難民を受け入れていたが、最近はミャンマーから天然ガスをパイプラインで引き、関係も正常化しつつある。カレン族の立場はさらに悪化する傾向にあるようだ。
そのようなカレン族の村を訪ね、聖書のことばを伝えたり、難民キャンプを訪問し、米や衣料品を届け、文房具やお菓子などを子どもたちにプレゼントしている。
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榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『天の虫けら』(マルコーシュ・パブリケーション)は、98年に出版された同師の自叙伝。高校生で洗礼を受けてから世界宣教に至るまでの、自身の信仰の歩みを振り返る。(Amazon:天の虫けら)