泥沼化したチェチェン紛争の最中、敵味方を区別しない医療活動を続け、多くの命を救い続けた戦場の医師ハッサン・バイエフ氏が1月31日に来日し、都内で記者会見を行った。会見では、危機に直面するチェチェン国内の医療問題を伝え、バイエフ氏が行うICCC(=チェチェンの子どもたち国際委員会、THE INTERNATIONAL COMMITTEE FOR THE CHILDREN OF CHECHNYA)の救済プロジェクトへの援助と協力を求めた。
ロシア南部のチェチェン共和国では、1994年から10年以上続くロシアの軍事侵攻により、全人口100万人のうち20万人以上が死亡。隣国への難民は当初は25万人、現在でも5万人が難民生活を余儀なくされているという。バイエフ氏はチェチェン紛争での悲惨な状況を記した著書「誓い」の中でも、人口の20%が死亡した大規模な無差別攻撃で子ども、老人を含む民間人への容赦無い暴力が行われていたことを伝えている。
質疑応答では、「1万4000人の子どもが身体に障害を負い、新生児の3人に1人が先天的な障害を持って生まれてくる」という現地の医師が伝える内実を語り、口唇裂(上唇が生まれつき裂けている状態)や口蓋裂(上顎が生まれつき裂けている状態)など、環境の破壊されたチェチェンで多く見られる先天性の病気を治療するための取り組み「オペレーション・スマイル」に参加した様子などを報告した。
今後2月から3月までの2ヶ月間、バイエフ氏は全国各地で講演を行いながら、日本の先進的な医療技術を学ぶために埼玉医科大学で先天的障害に対する治療を学ぶ計画だ。4月には「オペレーション・スマイル」の活動に再び参加し、ベトナムで口唇裂・口蓋裂の子どもたちに手術を施す予定。「今年の9月には現地のチェチェンに飛び、10日間の滞在で200人の子どもの手術を行いたい」と情熱を伝えた。
バイエフ氏は第1次、第2次と紛争が続いてきたチェチェンで野戦外科医として活躍。「助けを求める患者を差別してはならない」という医療従事者としての誓いを守り抜き、ロシア連邦軍とチェチェン過激派の双方から命を狙われた。2000年に米国に亡命。死と隣り合わせの状況下でひたむきな治療活動を続けてきたことから、NGOヒューマン・ライツ・ウォッチにより「2000年人権監視者」の栄誉を受ける。
2月17日に福島県いわき市内のキリスト教会交流会が主催する講演会があり、その後も同月23日に宮城県仙台市、24日は東京、3月1日には茨城県水戸市でアムネスティと水戸基督友会が主催する講演会、9日に札幌、16日には大阪と続く。
バイエフ氏は「チェチェン戦争で約4万人の子どもが殺された。殺されてしまった子どもたちが4万人いるなら、戦争で障害を負ったり負傷した子どもの数は計り知れない。そのことを考えると私たちは気がおかしくなりそうです」と語り、現地でなんとか人々を救おうと取り組んでいる活動家の思いを代弁した。
チェチェン紛争は「2007年・10の最もほうじられなかった人道的危機」(国境なき医師団発表)の中でも、皆無といってもいいほど報道されなかった人権抑圧と支配の紛争として知られている。
自国とあまりにもかけ離れた環境に感覚が適応できず、出来事を平面的にしか捉えられない日本人が多い。中には、関心を教会の外にすら向けないクリスチャンもいる。残虐な行為によって殺されていく人々を前に、突き動かされるように救援活動を続けるバイエフ氏の真実の姿は、世の光を証しするクリスチャンにとって大きな挑戦となる。
講演に関する問い合わせは、「ハッサン・バイエフを呼ぶ会」同代表:林克明(フリージャーナリスト)・岡田一男(映像作家)[email protected]まで。