
2011年の東日本大震災で、東京都町田市の会員制大型量販店「コストコ多摩境店」の駐車場のスロープが崩落し、2人が死亡、6人がけがをした事故で、東京地裁立川支部は8日、スロープの構造設計を担当し、業務上過失致死傷罪に問われていた1級建築士・高木直喜被告(69)に対し、執行猶予付の有罪判決を言い渡した。TBSなどが伝えた。
TBSによると、高木被告は無罪を主張していたが、東京地裁立川支部は高木被告の過失を認め、禁錮8カ月、執行猶予2年の判決を言い渡した。朝日新聞によると、この訴訟は、東日本大震災によって発生した事故に関して起こされた初めての訴訟で、震災によって建物が被害を受けたことに対して刑事責任が問われるのは異例だという。
同紙によると、国の基準では、スロープは震度5強程度の揺れにも耐える設計が求められていたが、東日本大震災では震度5の揺れで崩れ、車3台が下敷きになった。店舗とスロープのつなぎ目の強度不足が原因とされており、検察側は高木被告がつなぎ目の強度を高める必要があることを他の建築士に分かるよう伝えなかったと主張。一方、弁護側は、高木被告は強度を高める設計をしており、設計図通りでに施工していれば、スロープの崩落はなかったと主張していた。
東洋構造コンサルタントのホームページには、この事故訴訟に関する建築関連誌『日経アーキテクチュア』(2013年3月10日号)の詳しい内容の記事が掲載されている。
それによると、崩落したスロープは、店舗や立体駐車場のある鉄筋造・地上3階建ての建物本体に外付けされており、震災時には約50メートルにわたって崩落した。周囲の建物には目立った被害はなく、このスロープ崩落の被害が突出していたという。
スロープの構造設計は初め、都市構造計画(東京都豊島区)が設計し、その後、高木直喜建築事務所(石川県野々市市)の高木被告が受け持つことになり、構造設計を担当した都市構造計画の代表と高木被告、また、意匠設計と工事監理を担当したケイパートナーズアーキテクツ(東京都港区)の代表と元設計部長の計4人が書類送検されていた。
一方、同紙によると、高木被告以外の3人については、東京地検が嫌疑不十分で不起訴処分になっている。
同誌の記事では、設計途中でコストコ側の要望で設計変更があったことなど当時の詳しい経緯に触れつつ、建築紛争に詳しい福田晴政弁護士の話として、「警視庁の発表を見る限り、意匠設計事務所の2人に対する書類送検には疑問を感じる。通常の意匠設計者は、構造設計の耐震性を確認することはできない。それにもかかわらず意匠設計者に、耐震性能が低い設計を構造設計者にさせてしまったことに対する注意義務違反を認めることは、無理があるのではないか」という声を伝えていた。
結果として、意匠建設に関わった2人は不起訴処分となり、有罪となったのは構造設計を担当した2人のうちの1人である高木被告のみとなった。
同誌は当時、「書類送検とはいえ、地震によって崩落した建物の構造設計について、構造設計者でだけでなく意匠設計者も刑事責任を問われたことは、建築界に大きな波紋を広げている」と伝えていた。