キリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」は、世界で最もキリスト教徒に対する迫害が激しく、前代未聞の状況に達している国々のリストを公表した。2014年11月1日から昨年10月31日にかけて、全世界で信仰のゆえに殺害されたキリスト教徒は7000人以上に及ぶ。
カリフォルニアに拠点を置き、60カ国以上で働きを進めているオープン・ドアーズは昨年1月、現代史上最もキリスト教の迫害が激しかった年は2014年だと発表していた。にもかかわらず、2016年版のワールド・ウォッチ・リストを公表する中で、2015年は2014年をしのぐ、全世界のキリスト教徒にとって最も致命的な年だったと述べた。
オープン・ドアーズによると、今回の2016年版ワールド・ウォッチ・リストの集計期間中に信仰を理由に殺害されたキリスト教徒の数は、2015年版リストの集計期間に比べ、3000人以上増加している。さらに、2016年版の集計期間中に2400以上の教会が襲撃され、損傷を受け、あるいは破壊されているが、この数字は昨年版の2倍以上に上る。
「2016年版ワールド・ウォッチ・リストは、キリスト教徒に対する暴力が前代未聞の速さで増加したことを表しており、昨年がキリスト教徒に対する暴力と継続した攻撃が現代史上最も激しかった年だったことを示しています」と、オープン・ドアーズのデイビッド・カリー会長兼最高責任者(CEO)は13日の記者会見で説明した。「この調査から、2014年がキリスト教徒に対する残虐な迫害の年だったにもかかわらず、2015年は迫害の件数が増え、苛烈になり、世界中に広まった年だったという結論が出ました」
調査は今回で14年目になる。北朝鮮は迫害の程度を示すスコアが92点で、ワールド・ウォッチ・リストの1位となり、またもキリスト教徒に対する最大の迫害国となった。金政権が宗教に対する不寛容さを継続しており、5万人から7万人のキリスト教徒が強制収容所で苦しみを受けている。
世界から孤立している北朝鮮(1位)、スーダン(8位)、エリトリア(3位)がキリスト教徒やその他の宗教の信者の信教の自由を踏みにじり続けている一方、キリスト教徒に対する迫害の件数が爆発的に増加した理由の一部として、過激派組織「イスラム国」(IS)、ボコ・ハラムやアルシャバブなどの勃興が挙げられる。
ISが歴史的にキリスト教徒が住んでいたイラク北部のニネヴェ県の統治を強める中、イラクはワールド・ウォッチ・リストの2位に挙がっている。
ISの成長に伴い、数千人のキリスト教徒が、家と村を捨てて逃げるか、キリストへの愛のゆえに殺害されるかを選択せざるを得なくなった。キリスト教徒が多数脱出したことに伴い、調査結果からは、2000年にわたってキリスト教徒が暮らしてきたイラクの地では、キリスト教が「絶滅の淵にある」ことが判明した。
ISがシリア領内を広く制圧していることを考慮し、オープン・ドアーズはシリアをリストの5位に挙げた。
「イスラム過激派のカリフ制はより結束し、拡大しています」とカリー氏。「データからは、ISの体制によって、シリアとイラク領内でのヤジディ教徒とキリスト教徒の虐殺をより効率的に実行できることが示されており、数十万人のキリスト教徒をイラク北部やほかの国々の難民キャンプへと追いやっています」
ISがその残虐性のゆえに全世界でメディアの関心を引いている一方、2015年に最も多くキリスト教徒を殺害しているテロ組織は、ナイジェリア(12位)のボコ・ハラムだとカリー氏は指摘した。
「ナイジェリアのボコ・ハラムは、国家にとっても脅威である一方、実際にナイジェリア国内の広い領域を統治し、ニジェールに勢力を拡大、チャドも視野に入れています」とカリー氏。
2016年版のオープン・ドアーズの報告の中で、多くの死者を出したほかのテロ事件として、ソマリアに拠点を置くアルカイダの分派アルシャバブによるケニア(16位)のガリッサ大学襲撃事件が指摘された。昨年4月に起きたこの事件では、147人のキリスト教徒が殺害されている。
パキスタン(6位)は、これまでで最も高い順位にランク付けされた。オープン・ドアーズがまとめた概況報告書によると、パキスタンとナイジェリアは「キリスト教徒に対する最も激しい暴力が起こった地」だ。
パキスタンの冒とくと背教に関する法律は、しばしばキリスト教徒やほかの宗教的少数派をリンチしたり投獄したりする口実に使われ、法的機関が加害者を有罪とすることはほとんどない。サウジアラビア(14位)とエジプト(22位)も、宗教的少数派を迫害するために冒とくと背教に関する法律を運用していた歴史がある。
「パキスタン、サウジアラビア、エジプト、スーダンなどの国々において、信教の自由は、冒とくや背教に関する法律やその他の宗教的感情を攻撃から守ることを目的とした法律の影響によって脅かされています」と、米国務省の国際信教の自由担当特使を務めるデイビッド・セイパースタイン氏は記者会見で述べた。
「このような法律は、個人が宗教の名によって暴力を正当化したり、不当な取り扱いを受けたという偽りの口実に使われたりすることがあまりにも多くあります。政権がそのような行動を支持するとき、法律は暴力を行使した個人や社会的グループが刑罰を受けない空気を醸成し、この報告書にあるような多くの死に口実を与えます」とセイパースタイン氏。
ユダヤ教のラビであり、2014年にオバマ大統領によって特使に任命されたセイパースタイン氏は、オープン・ドアーズの報告を世界的に信教の自由を守るために「不可欠」なものとして称賛した。
「(ワールド・ウォッチ・リストは)政権内にいる私たちが世界中のキリスト教徒が置かれている現在の状況を理解するための重要な手引きです。彼らが受けている具体的な虐待を明らかにし、迫害に加担している政権や団体の責任を広めるものです」とセイパースタイン氏。「このような報告は、全世界で信教の自由を守るという私たちの共通のゴールへ向かうために不可欠なものです」