ジュネーブのエキュメニカル・センターでの新年の仕事始めに、尊敬を集めているドイツの神学者、ユルゲン・モルトマン氏が13日、世界教会協議会(WCC)の来賓として、一日がかりで連続講演や討論を行った。同氏は自身の新著書である『The Living God and the Fullness of Life』(生ける神と満たされるいのち、WCC Publications, 2016)についての意見や質問にも答えた。WCCが公式サイトで伝えた。
地方・地域そして国際レベルで教会間の問題に長きにわたって参加してきたモルトマン氏は、「エキュメニカル運動は一致とともに刷新に関わるものだ」と主張した。多様な諸教会のより近いメンバーがイエス・キリストの元に来れば来るほど、彼らはお互いにより近くなると、同氏は語った。
それでも、「カトリックの神学者たちはカトリックの神学者たちを引用し、そしてプロテスタントの神学者たちが自らに似た人たちを引用することが、一般的である」と同氏は認めた。
「全体としてのキリスト教よりもむしろ自分たちの伝統を身近に感じる傾向があるとはいえ」と同氏は続けた。「今日の世界の多くの地域にいる信者たちが嫌われて迫害されている」のは彼らがメソジストだとか改革派だからではなく、「彼らがクリスチャンだからだ」。エキュメニズムに関する聖ヨハネ・パウロ2世の回勅『キリスト者の一致(Ut unum sint)』を引き合いに出しつつ、モルトマン氏は、殉教者たちの証しはイエス・キリストの一つである教会に対するものであることを確認した。
モルトマン氏は、私たちが今日目にするような制度化された教会に究極的な信頼を置くことに対して警告をした。「エキュメニカル運動の幻と希望は教会の中にあるのではなく、神の国の中にある。私たちは未来の驚きに自ら心を開かなければならない」
聞き手の想像力をかき立てつつ、同氏はコンスタンティヌス時代に興った西洋の伝統主義的な教会を、とりわけアジアやアフリカそしてオセアニアで興りつつある非コンスタンティヌスの教会と対照させた。これらは「企てとして組織化された少数者の共同体」であり、聖霊の支えに依拠し、新しい形の霊性をもたらしているとした。
「私たちは自らの感覚の新しい霊性が必要だ」とモルトマン氏は述べ、この世を真剣に受け止める霊性を推し進め、「地の宗教」に対する献身に向けて動くことを説いた。同氏は自らが「神学に対する」この「エコロジカルな転換」とみなしたものを称賛した。
「政治的には、地の宗教はこの世における生、この地に対してより大きな献身を生み出す。それは体に対する感謝を表す」と同氏は付け加えた。「それは死のカルトに対して闘うよう、私たちをうながすのである」
ユルゲン・モルトマン氏のエキュメニカル・センターへの訪問は、正義と平和の巡礼に関するセミナーで始まったが、その間、幅広い対話に関わり、討論者のクレア・アモス博士(宗教間関係担当)やニャンブラ・ンジョロゲ牧師・博士(HIVとエイズに関する構想と提言担当)、そしてオデア・ペドロソ・マテウス牧師・博士(信仰と職制委員会担当局長)と交流した。
モルトマン氏はそれからお昼の礼拝堂での礼拝で黙想について語り、その後、神学の未来に関する公開講演を行い、多くの人々が出席した。この日の催し物はどれもみな、WCC総幹事のオラフ・フィクセ・トヴェイト牧師・博士が司会を務めた。
10代の頃、モルトマン氏はドイツの予備隊に招集され、続いて軍へと徴兵された。1945年から48年まで戦争の捕虜として神学を学び始め、その後大学に入学した。教鞭を取りながら幅広く講演を行い、現在はテュービンゲン大学の組織神学名誉教授である。
なお、モルトマン氏は1996年にエリザベート夫人と共に来日講演を行ったほか、2003年に沖縄を訪問して講演を行った。日本語訳された著書には、単著の書籍では最新刊の『わが足を広きところに:モルトマン自伝』(新教出版社、2012年)のほか、『存在の喜びの神学』(新教出版社、1973年)、『人間ー現代の闘争の中におけるキリスト教人間像』(新教出版社、1973年)、『キリストの未来と世界の終りーユルゲン・モルトマン説教集』(新教出版社、1973年)、『十字架と革命』(新教出版社、1974年)、『20世紀神学の展望』(新教出版社、1989年)、『希望・不安・黙想』(ヨルダン社、1990年)、『人への奉仕と神の国』(新教出版社、1995年)、『今日キリストは私たちにとって何者か』(新教出版社、1996年)、『新しいライフスタイルー開かれた教会を求めて』(新教出版社、1996年)、『無力の力強さ―ユルゲン・モルトマン説教集』(新教出版社、1998年)、『いのちの泉―聖霊といのちの神学』(新教出版社、1999年)、『神学的思考の諸経験―キリスト教神学の道と形』(新教出版社、2001年)、『終りの中に、始まりが 希望の終末論』(新教出版社、2005年)、『希望の神学―キリスト教的終末論の基礎づけと帰結の研究』(新教出版社、OD版、2005年)、『人類に希望はあるか―21世紀沖縄への提言』(新教出版社、2005年)、『聖霊の力における教会』(新教出版社、OD版、2005年)、『十字架につけられた神』(新教出版社、OD版、2006年)、『科学と知恵―自然科学と神学の対話』(新教出版社、2007年)、『J.モルトマン組織神学論叢(1)〜(6)』(新教出版社)などがある。
■ ユルゲン・モルトマン氏がエキュメニカル・センターで行った、神学の未来に関する講演の動画