日本時間の13日、国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定を受けて、気候変動問題に取り組む教会やキリスト教人道支援組織などからは、歓迎とともにその不十分さを指摘する厳しい声も相次いだ。私たちが今なすべきこととは何か。
世界教会協議会(WCC)は14日付の公式サイトで、世界のエキュメニカルな教会指導者たちは、異常気象によって最も深刻な被害を受けている貧しい国々の直近のニーズを考慮に入れているとして、パリ協定を歓迎したと伝えた。
同協定は、地球の気温上昇を摂氏2度よりはるかに下回るようにし、その一方で1・5度に保つためにあらゆる努力をする責任を各国に負わせていると、WCCは説明した。「歴史上最も重要なこの協定が、世界的な行動と低炭素で強靭(きょうじん)かつ持続可能な技術への投資を引き出すことが望ましい」と、WCCは述べた。
195カ国の指導者たちは、発展途上国が(気候変動の影響に)適応した、クリーンで持続可能な形で成長するために、先進国が必要な支援を行うことで合意した。また、経済以外の損失を含め、損失と損害に対して取り組む方法をさらに開発するために必要な支援も行うと約束した。
教会指導者たちは、教会や信仰に基づく組織がパリ協定に至るまでの過程で担った、極めて重要な役割を強調した。
WCC総幹事のオラフ・フィクセ・トヴェイト牧師・博士は、自らのツイッターのアカウントを使って感謝と希望を表した。「パリ協定は現実となった。私たちには希望を持つ権利がある! 神に感謝! そして、気候変動における正義に向けた歩みを進めてきた全ての人たちに感謝」と記した。
ルーテル世界連盟(LWF)総幹事のマルティン・ユンゲ牧師・博士は、この歴史的な成果を歓迎し、「何という一歩であり、何という目標だろう。全力を挙げてそれを支援しよう。私たちがそこに到達するまでの隔たりは、私たち一人一人が発揮する力で超えられる」と述べた。
WCCやルーテル世界連盟(LWF)の加盟教会などがつくる国際的な人道支援・開発ネットワーク「ACTアライアンス」総幹事のジョン・ンドゥナ博士は、「パリにいるACTアライアンスとLWF、そしてWCCの合同チームよ、あなた方は大変な仕事をよくやってくれた。その結果、野心的な気候協定ができた」とツイッターに投稿した。
これら3つの組織からは、100人を超える人々がパリに派遣され、他の宗教者や市民団体の代表らと共に活動した。
WCCは、多くの教会や宗教団体を含む、気候変動に関する地球規模の運動がなければ、今回の合意はおろか、これほど力強い内容とはならなかっただろうと述べた。
先週、国連気候変動枠組み条約事務長のダニエレ・ヴィオレッティ氏は、宗教間組織の役割をたたえた。「あなた方がパリに至るまでの途中やこの会議の間にしてくださった全てのことに、お礼を申し上げたい。道義的要請は気候変動会議の中心であり、それはあなた方の関与による直接的な結果です」とヴィオレッティ氏は述べた。「あなた方はこれからも関与し続けたいでしょう。これは不可欠なことです」
安全な世界という保障なし
しかしながら、専門家たちは、この取り決め自体が安全な世界をもたらすことはないだろうという点で一致している。世界の指導者たちは責任を増大させ、2023年にそれを検証し、2025年には拡大させなければならない。この検証は5年ごとに行われる。
「それ自体では、パリ協定は、私たちに共通の野心を実践的な履行へと駆り立てる法的拘束力のある道をもたらさない」とトヴェイト総幹事はコメントしている。「パリで発表されたこの新しい協定は、指導者たちが自ら述べた約束を確実に果たすようになるため、私たちの継続的な動員を必要とするだろう」
地球規模の信仰・霊的気候行動ネットワークである「Our Voices(私たちの声)」のフレッチャー・ハーパー牧師は、「約束は実現しなければならない。私たちがみな役割を担う必要がある」と強調した。「私たちはこの旅の次の段階への準備ができている。この協定は、気候変動に対する人類の問題解決の、始まりの終わりを表している」と語った。
また、ACTアライアンスは12日、「パリ協定は気候に優しい、より公平な未来の合図だ」と題する記者発表資料を公式サイトに掲載し、同協定を歓迎した。
「パリでの合意は、普遍的なパリ協定と一括支援をもたらした」とACTアライアンスの地球気候大使であるタボ・マクガボ大主教(南部アフリカ聖公会)は語った。「何百もの都市や地域、会社や教会が、今世紀半ばまでに化石エネルギーを漸次廃止していくという自らの力強い責任を証明した。これは気候変動と闘い、気候に優しくて強靭かつより公平な未来への希望を私たちに与えてくれる、人類の物語における一里塚だ」
「普遍的なパリ協定には、初めて全ての国家が地球の気温上昇を2度よりはるか下回るよう保つとの約束が含まれている」と同大主教は続けた。「長期的な緩和の目標、経時的な各国の行動を動的に拡大していくメカニズム、共通の透明性、そして脆弱な人たちのための一括支援といった、必要な手段が前進すべく全て組み込まれている」
「いま私たちは、全ての国々の政府に対し、自らの責任を負おうとしない国々のためにこの協定に含まれた、残っている抜け穴を閉じるよう呼び掛ける」と、ACTアライアンスCOP21代表団長のマティアス・ソーデルベルグ氏は語った。「貧しくて脆弱な人たちの中心課題に十分に取り組むためには、より多くの、そしてさらに素早い、気候変動に対する行動が必要だ。パリ協定の履行は、国別行動と国際協力の深化によって加速されなければならない」
タボ・マクガボ大主教はこう結論づけた。「私たちはみな被造世界の一部であり、私たちはこれに感謝する一方で、地球を大切にするという自らの責任を認める必要がある。この責任は、神によって私たちに与えられたものであり、従って私たちは、世界中の信仰団体として、その道を先導する必要がある」
教皇、COP21のフォローアップを強く求める
ローマ教皇フランシスコは13日、国際社会に対し、パリ協定で定められた道のフォローアップを緊急に行うよう強く求めた。バチカン放送局が同日に報じた。
教皇は、「最も脆弱な人々への特別な注意が保障されるという希望を持って、私は国際社会に対し、これまで以上に効果的な連帯の名において始められた道を進むよう説き勧める」と述べた。
「パリ協定の草案は勇気が足りない」と国際カリタス
一方、カトリックの援助・福祉活動をする国際NGO(非政府組織)、国際カリタス(CI)は11日、パリ協定が採択される前にその草案が発表された段階で、「カリタスは、気候に関する取り決めを歓迎するも、まだやるべき多くの事があると述べる」と題する記者発表資料を公式サイトに掲載した。
「大規模な動員と圧力が街頭デモをする民衆から出てきた。1・5度という気温上昇に関する目標や、気候変動に関する正義(climate justice)という概念、そして化石燃料産業に対してその時が終わりに達したという合図が言及されているのは、政治家たちに対するこの圧力のゆえである」と国際カリタスは述べた。
「協定の草案は、各国が地球の気温上昇を2度よりはるか下回るよう保つことを定め、1・5度という上限がただ言及されている」と国際カリタスは続けた。「世界で最も貧しい人たちのために、公平かつ公正な取り決めを求めて提言しようと活動しているカトリックの開発組織にとって、1・5度という気温上昇の上限は正しい方向への一歩であり、それが気候変動における正義の達成を助けるのは、次の場合のみである。すなわち、先進国による排出量の削減が科学的に信頼でき、かつ今世紀半ばに達成されること。透明な検証の進行に対するメカニズムがあり、各国の責任を増大させることである。排出量を向こう何十年間にわたってゼロ近くにまで削減する上で、全ての国々が自らの役割を担えるようにするには、実質的かつ予測可能な資金繰りもまた必要となるであろう」
国際カリタスとCIDSE(開発と連帯のための国際協力連盟)の合同による代表団は、COP21にずっと出席していた。国際カリタスのマイケル・ロイ事務総長は、「私たちは気候変動と闘う勇気と想像性を指導者たちに望んでいたが、協定の草案には野心が欠けており、地球上で最も脆弱な何百万人もの人たちに被害をもたらしている、この地球規模の緊急事態に対する十分な解決をもたらすものとなっていない。気候変動と貧困の撲滅、そして持続可能な開発の公平な利用の間の不可欠な連係がなされた一方で、人権がこの気候に関する協定の草案の中心にないというのは残念なことであるし、また私たちは、既得権益が共通の善にはびこるのを防ぐべきである」と語った。
CIDSE会長でオーストリア司教会議調整局(KOO)局長のハインツ・ヒュドル氏は、「教皇フランシスコのお言葉に感銘を受けた私たちは、世界中の何十万人の人々と共に、気候変動に関する政治的決定の道義的な次元について考慮するよう、そして気候変動の影響によって最も多くの被害を受けている貧しい社会をパリでの議論の中心に据えるよう、各国政府に求めた。私たち共通の故郷を大切にするには、私たちが複雑な社会的・環境的な危機に直面していることに気付くことが必要だ」と述べた。
国際カリタスは、「気候に関する資金に関しては、より豊かな国々が先導するのは心強いものの、それらの国々がどのようにして既存の1000億米ドルという義務から自国の拠出金を拡大する計画なのかがほとんど示されていない」と指摘した。「私たちは各国政府に、発展途上国の適応策のニーズのために予測可能な額の資金を確保してほしかったが、残念ながらそれは実現しなかった。発展途上国の将来の資金的なニーズが満たされるという保障はない。教皇フランシスコに共鳴して言えば、気候の危機に最も責任ある人たちが、最も責任がない人たちに対して、エコロジカルな負い目を支払わなければならない」
「もう一つの問題は、人権の保護が協定草案から欠如していることであり、この協定は、気候に関する一部の計画が人権を危うくしかねないというリスクを負っている。同時に、食糧安全保障に対する言及がないことも、世界中の脆弱な社会にとってさらなる打撃である」と、国際カリタスは指摘した。「草案では、土地は排出量を相殺するための手段として扱われており、それらの土地に住んでいる人たちに対する考慮が全くなされていないばかりか、それゆえに人々の暮らしや生活様式を次第に損なう。これは大規模な汚染者たちが、土地をわしづかみにするチャンスを与えては、計画と相殺して先住民族を立ち退かせ、その一方で耕地を減らしては自国での排出量の増大を続けることになってしまう」
「何年もの間論争となってきた損失と損害の問題が初めて、この新しい協定に盛り込まれた。決定は被災者たちを支援するための基礎をもたらすかもしれない一方で、幾つかの国々が、気候変動によって引き起こされる、取り返しがつかず取り消しもできない最前線にいる社会や人々の損害を補償する自国の責任を逃れたがっていたのを見て、がっかりした」と国際カリタスは続けた。
「この不十分な条文にもかかわらず、国際カリタスとCIDSEは、2015年を通じて気候変動における正義の運動から未曾有の連帯が示されたことに元気づけられた。運動家たちは、この新しい協定の下における責任を政治家たちに負わせることに自らの焦点を移すが、この運動を国際カリタスとCIDSEは促進し、支援し続ける。社会各層の人々からは、気候変動に関する政治的行動を求める力強い欲求があるのだ。気候変動における正義のための運動は成長し続けているものであり、それはパリの後も続くだろう」と結んだ。
LWFで気候変動における正義のための政策提言担当者を務めるマルティン・コップ氏は、日本時間の13日、フェイスブックでパリ協定について、「この初めての普遍的な気候協定は重要な一里塚であり、階段の段で言えば一段上がったものであるが、これから何年もかけて強化し、個人に加えて、都市や領域、企業、教会など、集団の動員によって完成させる必要がある政治的妥協(の産物)でもある。・・・この協定自体では、1・5度はおろか、2度という目標を、そして脆弱な社会の気候に対する強靭さの構築を達成することはないだろう。私たちはそれをさらに保ち、そして自らの役割を果たすのである。これは始まりの終わりだ。しかしその採択を喜ぶことは正当なことだ。明るい喜びをもって」と記した。
一方、カナダ合同教会元議長で「勇気と再生のためのセンター」ファシリテーターを務めているマルディ・ティンダル氏は、同教会のニュースメディア「UCオブザーバー」で、COP21の最終日についての報告を記し、「普遍的な合意は希望のため―そして行動のため―の根拠をもたらす」と述べた。
アングリカン・コミュニオン・ニュース・サービス(ACNS)は14日、聖公会の主教たちはパリ協定を「化石燃料時代の終わり」として歓迎したと報じた。また、英国国教会も12日、公式サイトでパリ協定を歓迎すると述べた。
その中で、同教会で環境問題担当の責任者であるニコラス・ホルタム主教は、COP21について、「(地球の気温上昇を抑えるという)念願について、野心的な協定があるのはよいことだ。今重要なのは、各国政府が実際に低炭素の未来をもたらすことであり、責任の透明性と検証の過程によって、それは確実に実現化される。6年前のコペンハーゲン(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議[COP15])の後に比べれば、より前向きな精神がある。しかし、私たちはまだこの旅の始まりの段階にある」
この会議に至るまでの間に、英国国教会はパリへの巡礼を企画した。巡礼者たちは、ロンドンからパリまで200マイルを歩き、COP21に対し、公平で野心的かつ拘束力のある気候の取り決めを達成するよう求めた。これは、ニコラス・ホルタム主教とオランド仏大統領の会談で頂点に達し、そこで同主教は、パリ協定が採択される前に約200万人が署名した気候変動における正義の要請書を提出した。「気候変動における正義を求める要請書に署名した信仰共同体の180万人を代表してオランド大統領にお会いしたのは、名誉なことだった。私たちの政治家や外交官たちが困難な決定をするのを支援することは、COP21の過程における重要な部分であったし、そして私たちは彼らのために祈り続ける」
また、英国のキリスト教援助団体「クリスチャンエイド」は12日、「パリでの取り決めは新たな夜明けの到来を告げる」と題する記者発表資料を公式サイトに掲載し、「クリスチャンエイドは最終的なパリの気候協定を、気候変動に取り組むために地球経済を変革する潜在的な可能性を持つ新たな時代として歓迎した」と述べた。
クリスチャンエイドの上級気候顧問であるモハメド・アドウ氏は、「史上初めて、全世界が温室効果ガスの排出量を削減し、気候変動の影響に対処するという公的な約束をした。動きは国によって速さが異なるものの、低炭素な世界への移行は今や避けられなくなった。各国政府や投資家、企業は、この波に乗らなければそれによって流されてしまう」と語った。
「交渉は長くて大変な闘いだったが、その結果は、気候を意識した政治の新たな夜明けの到来を告げることになる協定である。政治家が見て見ぬふりをする時代は終わった」と続けた。
「これは歴史的な協定であり、世界が4年前に定めた道の頂点だ。ダーバンではらんだ赤子が、今やっと生まれたのだ。どんな幼児でもそうだが、それは時間をかけて強くなるようにと養育する必要がある。それを確実に実現させるのは、各国政府次第だろう」とアドウ氏は述べた。「この取り決めは、世界中の重役会議室や株式市場に響き渡らなければならない。汚れた投資の時代は終わったのだ。もうかる、前向きな未来のビジネスの機会は、クリーンな投資にあるのだ」と語った。クリスチャンエイドは、キリスト教のさまざまな教派が化石燃料から投資を引き揚げるという最近の発表を歓迎すると、公式サイトで述べている。
アドウ氏は、「極めて重要なことに、パリ協定は貧しい国々を置き去りにしなかった。より豊かな国々は、発展途上国が(気候変動の影響に)適応してクリーンかつ持続可能な形で成長するのを助けるために、約束した資金を生み出す責任を負ったのである。国際条約において初めて、明確な配慮が損失と損害に対して行われた。あまりにも深刻で適応できない気候変動に直面している国々のための支援だ」と述べた。
「この取り決めは、それ自体では、(世界の平均気温上昇が)2度を下回る安全な世界をもたらすことはない。しかしそれは、世界が進みつつある排出量の道と、私たちを合意に導く道との間の落差をなくすために闘う機会を、私たちに与えるものだ」とアドウ氏。「変化しつつある世界のニーズに見合うように、この取り決めが確実に進化するよう、指導者たちは2020年より前に、そしてそれから5年ごとに、自らの責任を増大させなければならない」
アドウ氏は、「すでに0・85度の温暖化による影響が出てきている。すなわち、洪水や干ばつ、海面上昇、そして異常気象だ」と指摘した。「気温上昇を1・5度未満に抑えるという念願を達成するために、各国は自らが本気であることを示す必要がある」と述べ、「各国は、この1・5度という制限をただ願望するよりむしろ、実践的で長期的な排出量ゼロという目標を、今世紀後半を期限に定めるべきだ」と述べた。
また、同じく英国のキリスト教国際開発援助団体「ティアファンド」も12日の記者発表資料で声明を発表した。その中で、同団体の政策提言ディレクターであるポール・クック氏は、「ティアファンドはこの極めて重要な気候会議で示されたこの取り決めを歓迎する。これは前向きなよい一歩だが、それで満足しないようにしよう。これは、私たちが必要な全てのものを与えてくれるものではない。気候変動による最悪の被害を避けるべく、地球の気温が1・5度を超えて上昇することが確実にないようにするために、各国は向こう数年間に自らの排出量をさらに削減する必要がある」と述べた。
また、「私たちは世界で最も貧しい人たちの一部と共に活動しており、気候変動によって生活やビジネスがいかに破壊されているかを毎日見聞きしている。各国にとっての課題は、パリでの取り決めを自国に持ち帰って、1・5度という制限を本当に実現できるようにするまで、紙で約束したことを行動に移し、それをさらに強めることだ」と語った。
クック氏は、「ワクワクしていることは、この会議が支えた運動の増大を目の当たりにすることだ。つまり、教会を含めた社会各層の人々が、ここパリで気候に関する行動のために自らの声を上げたことだ。私たちはこの勢いを止めることなく、各国政府に責任を負わせ、気候変動の破壊的な影響を日々体験している世界中の人々を助け続ける」と述べた。
COP21に参加した世界福音同盟(WEA)のエフライム・テンデロ総主事は、「気候のための信仰:パリとそれ以後における行動への希望」と題する文章を8日、WEAの公式サイトに掲載し、「この地球規模の生き残りに取り組む上で、信仰者が関与する重要性は三つある。一つ目は、私たちがこの問題に関する道義的な次元をもたらすこと。二つ目は、宗教者は普遍的な規模で行動を実施できること。最後に、宗教者は希望という要素をもたらすことができることだ」と述べた。