新教出版社は10日、英国の著名な新約聖書学者、N・T・ライト(セント・アンドリュース大学神学部教授)の主著『新約聖書と神の民』の上巻を発売した。
これは、原書である『The New Testament and the People of God』の前半部分を日本語訳したもの。Christian Origins and the Question of God (キリスト教の起源と神の問題)シリーズ全6巻の第1巻で、原書は1992年にFortress Pressから出版されたが、米国では今もなお売れ続け、ロングセラーとなっている。また、英国のSPCK Publishingから96年、そして2013年に新版がそれぞれ出ている。13年のものは全部で560ページにわたる大著。
新教出版社は同書について、「ここでは聖書学方法論を徹底的に再検討した後、新約聖書のユダヤ教的前提を詳述し、原始キリスト教理解の導入をはかる」と説明している。
同書は第I部「序論」として、第1章でキリスト教の起源と新約聖書について論じている。次に、第II部「課題のための方法」では、第2章「知識――その問題と多様性」、第3章「『文学』、ストーリー、そして世界観の表明」、第4章「『歴史』、そして紀元1世紀」、第5章「『神学』、権威、そして新約聖書」と続く。
第III部「ギリシャ・ローマ世界における1世紀のユダヤ教」では、第6章「背景とストーリー」、第7章「多様性の広がり」、第8章「ストーリー、シンボル、実践――イスラエルの世界観を構成するもの」、第9章「イスラエルの信仰」、第10章「イスラエルの希望」で終わっている。
セント・アンドリュース大学でN・T・ライトに師事し、6月に同大学より哲学博士号(新約聖書学)を取得した翻訳者の山口希生氏は、本紙に対し、次のように語った。
「敬愛するN・T・ライト教授の代表作がいよいよ日本で出版されることを大変うれしく思います。本書はライト教授の代表作であるばかりでなく、80冊を超える彼の著作の中でも極めてユニークな書です。それは新約聖書研究の枠を超え、現代文明批評とさえ呼べる大きなスケールを持っています。本書のカバーする内容は哲学、文学、歴史学、そして神学にまで及びます。それら全てが、私たちが新約聖書を深く味わうために必須な分野であることが大胆に、説得力をもって論じられています。また、本書を読み進める中で、新約聖書について知らず知らずのうちに私たちが抱いてるさまざまな『前提』に気付かされるかもしれません。その前提の一つが、古代ユダヤ教についての理解です。新約聖書が古代ユダヤ教の世界から生まれたという事実は、私たちにその世界についての深い理解と洞察を求めます。本書をじっくり読まれることで、読者の皆様が新約聖書の世界を新鮮な目で見ることができることを願ってやみません」
新教出版社によると、下巻は来年後半に発売される予定だという。詳しくは同社のウェブサイトおよび『出版通信』2016年1月号(PDF)を参照。