【CJC=東京】カトリックの総元締めとされるバチカン(ローマ教皇庁)が、機密文書漏えい事件で揺れている。
文書を暴露したジャーナリスト2人の著書が5日、イタリアで発売された。長年にわたる放漫財政や一部聖職者の「強欲ぶり」が明るみに出て、改革を進める教皇フランシスコへのバチカン内部の抵抗が浮き彫りになった。バチカンは11日、漏えい容疑で2日までに逮捕した高官ら2人に加え、ジャーナリスト2人の捜査を開始したと発表している。
暴露本は、イタリア人ジャーナリスト、ジャンルイージ・ヌッツィ氏(46)の『十字架の道』(仮訳)と、レスプレッソ紙エミリアーノ・フィッティパルディ記者(41)の『強欲』(仮訳)の2冊。
バチカン当局は今月2日、財務部次官のスペイン人高位聖職者(モンシニョール)ルシオ・アンヘル・バジェホ・バルダ容疑者(54)と、イタリア人広報コンサルタント、フランチェスカ・イマコラータ・シャウキ容疑者(32)を文書漏えい容疑で逮捕したと発表した。11日にはジャーナリスト2人に協力した高官も捜査対象とする方針を表明した。
暴露本によると、世界各地の教会から貧窮者支援のために寄付された義援金「ペトロのペンス」の6割が、バチカンの財政赤字の穴埋めに回されていた。また、カトリックの崇敬対象である「聖人」や「福者」の認定のために届いた巨額の寄付金が使途不明になっている。
バチカンが保有する不動産は市場価値が約27億ユーロ(約3550億円)と評価されているが、その管理もずさんで、アパートが聖職者らに格安で賃貸されていた。またベルトーネ前国務長官(80)の床面積数百平方メートルの「豪華アパート」の改修費の一部として、20万ユーロ(約2640万円)がカトリック系小児病院の財団から拠出されていたという。
社会的弱者に寄り添う「貧者の教会」を掲げる教皇は就任以来、バチカンの構造改革に取り組んでいるが、内部には不満がくすぶる。ヌッツィ氏は自著『聖堂の中の商人たち』発表会で「50平方メートルの小さなアパートに暮らす教皇は改革を進めようとしているが、多くの困難に直面し、抵抗に遭っている」と障害を指摘した。
バチカンでは10月、再婚信徒や同性愛者の処遇をめぐり保守派が教皇に反旗を翻し、教義の厳格適用を求める保守派と、現実路線の改革派の対立が表面化したばかり。教皇は8日、日曜恒例の祈りの集会で、漏えい事件について「機密資料を盗み出すことは罪だ」と非難する一方、「事件で、改革から注意がそらされることはない」と改革路線の推進を強調した。
しかし教皇は「皆さんの支援により前進している改革の足が引っ張られることはない」と強調、多数の参列者らを前にバチカンの組織改革を進めていく意思を示した。