オバマ政権はシカゴの学区に対し、1カ月以内にトランスジェンダーの生徒に女子更衣室の使用を完全に許可するよう求め、さもなければ連邦政府からの補助金をカットすることを通告した。
米国の教育相市民権室は、生物的に男性の匿名の生徒に女子更衣室とシャワー室を制限なく使わせなかったとして、イリノイ州パラタインの郡高校211学区が性別によって差別をすることを禁止した男女教育機会均等法に違反していると判断した。
この匿名の生徒が2013年に市民権室に苦情を申し立てた後、市民権室と学区は2年にわたりこの問題について討議してきた。
この学区は、自認する性のトイレを使うことを許可するなど、区内の高校5校に在籍するトランスジェンダーの学生のために多様な便宜を図ってきた。この生徒にも、体育の授業の前後にカーテンで仕切られた特別な更衣ブースをロッカー室に設けることを申し出た。
しかし、双方の交渉は、学区がこのトランスジェンダーの学生に対し、他の女子生徒が着替えている間はカーテンで仕切られた更衣ブースを使うよう求め、室内の共用の場所を使うのを禁じたことで暗礁に乗り上げた。
2日、市民権室は報告書を発表し、その生徒に更衣ブースを使うよう求めることは、他の生徒と「異なる行動ルール」に従わせることとなるため違法だと述べた。そして学区に対し、30日以内にその生徒に女子更衣室を制限なく使用する許可を与えなければならないと命じた。
学区がこれに従わない場合、連邦からの補助金の一時差し止めないし取りやめなどの強制措置が行われる可能性がある。この学区の年度予算は2億4千万ドル(約292億円)であり、うち600万ドル(約7億3千万円)が連邦政府からの補助金だ。
学区は何も誤ったことをしていないという認識を変えておらず、その意思に反してトランスジェンダーの生徒に更衣室の制限のない使用を許可すると、他の女子生徒のプライバシーが保障できなくなるとしている。
ダニエル・ケイツ教育長は市民権室に送った声明の中で、「学校に在籍している生徒たちは10代で、大人ではありません。そしてある人のジェンダーは解剖学的性と同じではありません」「男子と女子は、理由があって共同の更衣エリアと共同のシャワー設備があるそれぞれに分けられた更衣室を使うのです」と述べた。
ケイツ教育長は、学区は法に違反していないと断固として主張した。さらに、オバマ政権はあくどい職権乱用をしようとしていると非難した。
「私たちは、このことが全国の学区に関わる決定的なことだと認識しています。211学区に対し市民権室がしようとしていることは、前例のないことであり、深刻な職権乱用です」と強く主張した。
そして、脅しに屈して言われた通り行動することはないと述べた。
「211学区は、私たちの申し入れが合理的であり、すべての生徒の尊厳を尊重するものだとの考えを固持します。学区は市民権室と建設的な議論を続けますが、全ての生徒の権利を尊重する私たちの姿勢が法に適っているものかどうか、いつもあらゆる方法によって点検する心づもりです」
一方、その生徒の代理人である法律団体「アメリカ自由人権協会」は、生徒に代わって市民権室の報告と命令を喜ぶコメントを発表した。
「この決定にとても喜んでいます。私個人に関わることですし、無数の他の人にも関わることだからです」とその生徒は述べた。「学区の政策は私に汚名を着せ、時に『普通の人間ではない』と感じさせられました」
今回の市民権室の対応を受け、ニューヨークポストは論説記事で、市民権室の行動が「他の生徒のプライバシー権を強引に狭めている」と主張した。
「当人が『自認』しているといえども、その更衣室で他者が見る現実は変わらない」と記事は論じている。「連邦の官僚は、その現実を否定するために法を書き直す権利はない。米国の法律でそのような『トランスジェンダーの』権利を規定しているものはないし、連邦議会がそれを作りだそうとしたとは誰も思わないだろう」
「文化的な『進歩』はトランスジェンダーの権利を包含しているが、大衆はそうではない。そう、今日の米国人は『私の自認』により調子を合わせようとしている。しかしそれは性器が存在しないようにふるまうという点ではない」
トランスジェンダーの運動を「大衆がまだ受け入れていない」ことの証左として、ヒューストンの事例を記事で取り上げている。ヒューストンでは昨年、トランスジェンダーに対し自認通りの性のトイレと更衣室を使用する権利を認めた被差別条例を市議会で可決したが、3日の住民投票で否決された。