これまで世界140カ国を取材し、「紛争」「地球環境」などを基軸に、独自の切り口で「文明論」を展開するフォトジャーナリスト桃井和馬氏の写真展「生きぬく人。生かされる人。活かされる人。」が、桜美林大学荊冠堂チャペル地下1階ギャラリーにて10月20日から開催されている。桃井氏が、特任教授を務める同大学で写真展を開くのは、今回が3回目となる。1回目は、創世記を想起させるような「自然」、2回目は「地球の破壊」、そして、今回のテーマは「人間」だ。
チャペルの静けさの中に、桃井氏が世界中で撮影した写真の中から、テーマに合わせて選ばれた約40枚が展示されている。アフガニスタン、コンゴ、ソマリア、チャド、ベネズエラ、マルタなど、20カ国以上で撮影された写真には、テーマが「人間」である通り、子どもからお年寄りまで、総勢120人以上の人々の姿が写っている。楽しそうにはしゃぐ子どもたち、友人と和やかに話す男性、寄り添う老人、祈る女性・・・。
写真を見れば、肌の色、目の色、髪の色、服装は違うと言えども、どの国の人々も、日本に生きる私たちと全く変わらない同じ人間であることがあらためて感じられる。だが、その一方で、写真の背景に写る景色は、決して同じではない。砲弾や銃痕の残る建物で生きる子どもたち、密造された銃を手にする青年。写真の中に一枚、銃口がこちらに向けられた写真がある。その前に立っても、全くリアリティーが感じられず、恐怖心など湧いてこない自分がいることに気付くと、いかに私たちの住む世界が平和であるのか痛感する。写真を見る人の口からも、「日本は幸せな国だな」という感想が聞こえてくる。
実際に現地に赴き、多くの人々にレンズを向け続けてきた桃井氏は、いつも彼らの視線に、「お前は何者なのか?」「正しく生きているのか?」「心に嘘はないのか?」と、心を射抜かれる思いをしてきたという。今回の写真展を通して、見る人に何を感じてほしいのか、その思いを聞いた。
―世界140カ国を旅し、数多くの写真を撮影なさっている桃井先生ですが、今回展示されている写真にはどのような思いが込められているのでしょうか。
人間社会には、喜びや悲しみが存在しています。たとえ今、悲しみの中にあっても、それでも生き続けようとする人間。そこに未来への希望を見るのです。私の写真は、ただ単にかわいいだけの写真ではありません。笑っていない写真も多いのです。しかし、写真に写る人々の瞳を見つめていくと、その人の心に触れることができるのです。人の心は、複雑で、予定調和ではありません。しかしだからこそ、深く、だからこそ未来を託したいと感じるのです。
―大学内での写真展として、学生たちの目に触れやすい場所に展示されていますが、写真を見る若者たちに何を伝えたいと考えていらっしゃいますか。
写真展会場は大学で、見る人の多くは、これから社会に出ていく学生です。彼らに未来を託したい。彼らにまっとうな未来を創ってほしいと、私は願っています。つまり、写真家としての私ができる、まっとうな未来を創るための写真展なのです。一人の写真家ができることは限られています。しかし、一人の写真家が撮ってきた世界の現実を展示して、多くの人に見てもらうと、より多くの人の活動の基になる可能性もあるわけです。からし種はたとえ小さくても、いつかは大きな木に成長する。そう信じるからです。
―展示されている写真の撮影秘話や、印象に残っているエピソードなどがあればお教えください。
ギリギリの状況の中で撮った写真も少なくありません。特に、アフガニスタンやコンゴの写真は、戦火が止んだ、一瞬を狙い現地に入りました。危機感を肌で感じ続けながらの撮影。しかし、そうした中にも、子どもたちが生きていた。いえ、生きぬいていたのです。今回は、1枚だけ、アウシュビッツの写真も展示していますが、あの歴史的な場所から分かるのは、「人間がどこまでも残虐になれる事実」です。しかし、今回何枚も展示してある愛し合うカップルの写真から分かるのは、「人間がどこまでも愛情を注ぐことができる存在」だということです。その狭間で、人は揺れ、社会は変化してゆくのだと思っています。
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写真展は、3月15日(火)まで開催している。平日午前10時から午後4時まで(学校行事の都合上、臨時で閉館する場合あり)。問い合わせは、同大キリスト教センター(042・797・1695)。