末日聖徒イエス・キリスト教会(通称:モルモン教)は、発行する国際機関紙『リアホナ』の10月号で、創始者のジョセフ・スミス(1805〜44)が天使から受け取った金版を『モルモン書』(モルモン教における「イエス・キリストのもう一つの証し」が記された聖典)として翻訳する際に使用した「聖見者の石」の写真を公開した。この石は、翻訳が終わった1830年春に、モルモン書の筆記者の一人であったオリバー・カウドリに渡され、ユタ州ソルトレイクシティに都市を開拓したブリガム・ヤングなど複数人の手を経て、代々モルモン教の指導者によって所有されてきたとされている。一般に写真が公開されるのは、これが初めてのことだ。
石は卵型でチョコレート色をしている。聖見者とは、 世の人々から隠されたことを、霊の目で見るのを神に許された人のことで、過去、現在、未来の出来事を理解できるとされている。啓示者、預言者、先見者と同義語であり、スミスをはじめとして、モルモン教の指導的立場にある大管長会と十二使徒評議会が、聖見者として支持を受けている。この石は、これらの聖見者だけが使うことができる特別な道具で、人が啓示を受けたり、翻訳をしたりするのを助ける目的で、神が備えた道具だという。1833年ごろからは、旧約聖書に登場する言葉を用いて「ウリムとトンミム」とも呼ばれるようになった。
スミスは、1827年に天使モロナイから金版を受け取ったときに、それを翻訳するための2つの石も与えられたとされている。スミスの知人たちが残した記録によれば、2つの石は、白あるいは透明に見え、現代のメガネのような銀の縁にはめ込まれ、大きな胸当てに付けられていたという。この記録にある2つの石は、モルモン書の翻訳が終わったときに、スミスが金版と一緒に神の使者に返したそうで、今回写真が公開されたチョコレート色の石は、スミスがそれ以外にも複数所有していた石のうちの一つ。
モルモン教は、聖見者の石の理解について、「19世紀初頭の人々の一部は、聖書の言葉と、移民によって北米に持ち込まれた英国系欧州文化の融合の両方から大きな影響を受け、天与の才のある人は聖見者の石など物理的な物を通して『見る』、すなわち霊的な示しを受けることができると信じていた」と述べている。
このような時代背景の中に生まれたスミスも、若い頃から、紛失物などが聖見者の石を使うことによって見えるという、当時の民間の考え方を受け入れていたという。しかしそれは、物理的な物を用いて人々の信仰を集めたり、霊的な交流を図った旧約聖書の神が、時代が変わっても当然同じことをすると考えたからだとし、民間の文化の影響だけによるものではないとしている。