米国のカトリック団体「フレンズ・オブ・フランツ・イェーガーシュテッター」が、今月22日から27日まで訪米するローマ教皇フランシスコに対し、訪米中に米国による戦争を非難するよう求める書簡への署名運動を行っている。
同団体は、ナチス・ドイツへの兵役を拒否して処刑され殉教したオーストリアの福者フランツ・イェーガーシュテッター(1907〜43)の証しに感化されたカトリック信者らによる団体。自らの心を清め、沈黙によって戦争という暴力に加担していることへの赦(ゆる)しを求め、聖書と教会の伝統に基づいて皆が良心を形作ることができるように、イエス自身の非暴力的な教えと生涯について、とりわけ若いカトリック信者を教育することを目的としている。
「米軍は圧倒的にキリスト教徒が多く、軍に関わる3分の1がカトリック信者であることから、テロリズムや大虐殺に対するあなた(教皇フランシスコ)の非難が、今ここでより積極的な効果をもたらせたらと望んでいます」と、この書簡には記されている。「私たちは、あなたがはっきりと声を大にしてくださり、またあなたの受け入れ国である米国が今でさえ中東のイスラム教徒や、キリスト教徒のアラブ人やアフガニスタンの国民に負わせているテロリズムや大虐殺を、あなたが公に非難してくださるよう乞い願います」
さらに書簡は、「制裁や爆撃、侵攻、反乱兵の武装を含む何十年もの攻撃によって、何百万人もの人たちが殺され、さらに多くの人たちが住居を追われ、家なき人たちとなったままです」と続けている。「遠隔操作のドローンによる暗殺は市民社会を不安定にし、罪のない何千人もの人たちを殺しています。何千人もの人たちが投獄され、拷問を受けています。多くの土地が荒れ果てて毒にまみれ、そして古くからある共同社会が破滅させられているのです」
「9月にあなたが訪問されるのは、全く新しい世代の核兵器の開発と生産に何兆ドルも投資し、被造物を未曽有の破壊で脅かしている一方で、その自国の国民の多くが質素な尊厳のある生活をするのに必要な手段を欠いている国です。あなたが非難しておられる地球規模の不平等は、その中で最も貧しい人たちが、資源減少や気候の混沌による惨害に苦しんでおり、米国の政府と経済を支配している人たちはそれを解決すべき問題だと判断しておらず、何としてでも防衛すべき利益であるとしているのです」
また、「既に全世界で800を超える米軍基地があり、さらに多くの基地を建設するために、先住民の土地は彼らの抗議に対して荒らされているのです」と、書簡は付け加えている。
そして、「教皇フランシスコ様、私たちはあなたが外交官として、そして司牧者として米国に来てくださるものと理解していますが、しかしこの危険な時代に私たちは、何よりも預言者としてのあなたをここに必要としているのです。わが国の政府とその国民、組織、そして教会が人類と神の被造物に対する犯罪に共犯していることをはっきりと非難することなしに、オバマ大統領や米議会、米国のカトリック司教団、そして米国市民にどうか語り掛けることのないようにしてください」とこの書簡は結ばれている。
8月11日までに行われた署名は、米国最大のカトリック信徒メディアである「ナショナル・カトリック・リポーター」(9月11日号)に掲載されるほか、その後の署名を含めた全ての署名は、9月24日に教皇フランシスコが米議会で演説を行うまで署名サイトに表示されるという。
署名者は、「カトリック信者か他のキリスト教の教派に所属している人、もしくは平和と正義の人で署名したい人」が対象で、24日までに1000人の署名を得ることを目標としている。署名者数は約2カ月がたった7日現在で140人を超えている。ただ、こうした訴えは、今のところ米国カトリック司教協議会の公式な総意を表すものとはなっていない。
なお、イェーガーシュテッターは2007年に、当時のローマ教皇ベネディクト16世によって列福された。イェーガーシュテッターに関する日本語の書籍には、エルナ・ブッツ著『流れに抗して : F・イェーガーシュテッター ヒトラーのために戦うのを拒否した男』(磯谷武郎、2003年)が立命館大学図書館や国立国会図書館などにある。