「安全保障関連法案に反対する学者の会」の呼び掛けで、キリスト教主義大学を含む、安保関連法案に反対する80大学の有志が26日、ガーデンシティ永田町(東京都千代田区)で共同の記者会見を行った。
同会の事務局代表を務めている学習院大学の佐藤学教授によると、こうした有志による声明の発表や行動は、同会が把握しているだけで108大学に上るという。
このうち、7月23日付で「安全保障関連法案に反対する恵泉からのアピール」を教職員有志と共に大学の公式サイトに発表した、恵泉女学園大学の川島堅二学長は会見で、「この度の安保関連法案をめぐる一連の動きの中で、教育に携わる者として最大に評価できることは、若い人たちが非常に独自な方法・仕方で反対の声を上げているということだと思っている」と述べた。
「『独自な』というのは、もちろん従来から政治活動・社会運動に関心を持って関わってきた学生たちというのは一定数いたと思うが、その裾野が格段に広がっている。それまで政治や社会の動きに全く関心を示さなかった若い人たちが多く参加している。それがこの一連の動きの中で非常にユニークであり、またかつ魅力的なアピールになっていると認識している」と川島氏は説明した。そして、「今、日本の将来というのはなかなか明るい兆しを見ることができないわけだが、こうした若い人たちの中に一縷(いちる)の光明を見る思いがしている」と述べた。
一方、「大学関係者の動きは必ずしも積極的ではないという強い危機感を持っている。教育の方法などについては盛んに研修などがなされているが、もっと根幹に関わるこうした問題はほとんど話題にならない」と指摘。しかし、こうした各大学共同の行動をこのタイミングで企画できたことはうれしいとして、学者の会の運営を担ってきた人たちに敬意と感謝を表明した。
上智大学外国語学部の東郷公徳教授は、同大では50人ほどが呼び掛け人となり、7月末に安保法案の廃案などを求める教職員有志による声明を作り、現在までに1200人近くの賛同人を集めていると説明した。29日(土)には立教大学の有志と合同の集会も企画しており、「上智と立教だけではなく、全国からキリスト教関係の大学の人たちが集まると聞いている」と述べた。
東郷氏は、同大がカトリックのキリスト教主義大学であり、「常に弱い者の立場に立って考え、行動できる人材を育成することを使命としてきた」と説明する一方、「われわれには過去の苦い体験がある」と言い、1932年の上智大学靖国神社事件に触れた。事件により存亡の危機に立たされた同大は、自らを守るために当時の軍国主義の流れに屈し、「結果として大切な学生たちを戦場に送り、多くの尊い若い命を失うことになった」と述べ、「その悲しい歴史を繰り返してはいけないと、われわれは強く心に決めている」と語った。
そして、「安保関連法案は違憲法案であり、この法案を成立させることは、日本における立憲主義と民主主義の根幹を揺るがす。さらに憲法9条が掲げる平和主義をなきものとすることで、新たな戦争への道を開くものだ」と指摘。「われわれは過去の苦い体験から学び、今度こそ戦争への道を開くことを何とか阻止しなくてはならない。また、学問を通して真理を追究する研究者の端くれとして、安倍政権のさまざまな政策・言動に見られる反知性主義にも深い憂慮を感じている」として、「日本における立憲主義と民主主義を守り、平和を希求し、知性の府である大学を守るために、ここに集まっておられる皆さんと共に、今度こそ決して諦めることなく、これからも声を上げ続けていく所存だ」と語った。
一方、「安全保障関連法案に反対する立教人の会」の呼び掛け人の一人である立教大学社会学部の高木恒一教授は、「われわれが今ここにいるのはただ一つ、『廃案にしたい』、この一点だと思う。それは、さまざまな立場、さまざまな観点、さまざまな意見を超えて、あるいはその中の最大公約数として、この『廃案』ということがあるのだと思う」と述べた。
高木氏は、戦時中、多くの学生を戦地に送り出し、彼らを被害者だけではなく、加害者にもさせた歴史への反省と、キリスト教主義大学として担ってきた一定の責任に立った上で、どう考えても安保法案に賛成できないという人々が、同会の呼び掛け人として集ってきたと説明。そして、同会のサイト立ち上げ後、驚くほどのスピードで賛同者が集まったとし、「立教として、立教の立場からこれは反対ができるということをあらためて考えている」と述べた。
そして高木氏は、「それぞれの大学、それぞれの研究者、それぞれの分野が多様な立場を持っていると思うが、それを超えて私たちは集まれる。あるいは集まらなければいけない状態にあるんだと思っている。このことを本日確認し、さらに皆様と共に歩んでまいりたいと思う」と結んだ。
「安保関連法案に反対する関西学院大学有志の声明」の起草者で、その署名の呼び掛け人の一人である同大宗教主事の山本俊正教授はまず、声明発表後、約10日間で500人近い署名が集まっていると報告した。
山本教授は、米国のメソジスト派宣教師によって同大が創立された1889年がちょうど、大日本帝国憲法が発布された年であったこと、そしてその後、国粋主義や富国強兵など戦争の準備が続けられ、10年後の1899年に出された文部省訓令第12号と私立学校令によって宗教教育や礼拝を禁止される経験をしてきたことを説明した。そして、同大にいた外国人宣教師の教師が全員帰国しなければならなくなったこと、また多くの学生を戦地に送った経験を語った。
その上で山本教授は、「戦後70年の間、戦争しない国として歩んできた一つの要因は、やっぱり憲法9条だっただろうと思う」と述べ、「今回の安保法案は、集団的自衛権の行使を容認するということで憲法9条を空洞化するものだろうと思う。私たちは二度と戦場に若者を送りたくないという思いからこの法案に反対している。皆さんと連帯できることをうれしく思っている」と語った。
この他、北海道大学、安保関連法案に反対する被災三県教員有志の会、創価大学、早稲田大学、東京大学、京都大学、立命館大学、広島大学、九州大学の有志がスピーチを行った。
また会見後には、参議院議員全員に直接声を届けようと、参議院議員会館を訪れるとともに、同日午後6時から日本弁護士連合会が主催した日比谷野音大集会・パレードに参加した。