キリスト教のカウンセリング関連書籍の中から、臨床心理士の藤掛明氏(聖学院大学准教授)が、おすすめ本として独自に選定する「2015おふぃす・ふじかけ賞」に4冊が選ばれ、その授賞式が25日、教文館ギャラリーステラ(東京都中央区)で行われた。受賞者に藤掛氏から賞状が贈られ、著者や担当編集者らが、それぞれの書籍にまつわるエピソードを交えながらスピーチした。
キリスト教のカウンセリング本への関心を高めようと、藤掛氏自らが、昨年4月から今年3月までに刊行された書籍を対象に選んだ。賞の名称は、藤掛氏のブログ名「おふぃす・ふじかけ」から。今回選ばれた4冊は、藤掛氏が他の人にも読んでほしいとほれ込んだ本だという。4冊の受賞作品と、藤掛氏のコメントは次の通り。
『自死遺族支援と自殺予防─キリスト教の視点から』(平山正実・斎藤友紀雄監修、日本キリスト教団出版局、2015年3月16日):月刊誌『信徒の友』に連載された記事をまとめたもの。2年分の気合いが込められている。トピックスを総動員し、20人以上の執筆者が関わっているが、寄せ集めという感じがしない。謙虚に現場の息づかいを扱おうとする一貫した姿勢を感じる。
『牧会相談の実際─カウンセラーと共に考える』(藤掛明・小渕朝子・村上純子編著、あめんどう、2015年4月1日):従来こういう本は、牧師か医師が書く。しかし、心理カウンセラーが書くとこうなるという本。入り口部分のヒントに満ちている。
『死と向き合って生きる─キリスト教と死生学』(平山正実著、教文館、2014年12月10日):クリスチャン精神医学の開拓者が書き残した、渾身の死生学論文集。まなざしの優しさがすごい。
『牧会の羅針盤─メンタルヘルスの視点から』(関谷直人著、キリスト新聞社、2015年3月20日):季刊誌『ミニストリー』に連載された記事をまとめたもの。ハラスメントやDVなど時代の先端の課題も扱っている。短い文章ながら、具体的に、また実際的に書かれ、解決のヒントを教えてくれる。
これらの受賞作を「豊作の4冊」と総評した藤掛氏は、自身の「独断と偏見」による賞であることを前置きした上で、こうしてキリスト教のカウンセリング本を挙げることは、キリスト教カウンセリングの「いま」をあらためて体感することでもある、と話した。特に、自死(自殺)をどう受け止めていくのか、時代病理として台頭してきた依存症やパーソナリティー障がいをどう受け止めていくのか、の2つの大きな課題が見えてくるという。
自死についてのトピックスが網羅されている『自死遺族支援と自殺予防』の監修者、日本自殺予防学会理事長の斎藤友紀雄氏は、「自殺問題は謎に包まれている。人間の想像を超える出来事。いつも謙虚でなければならないと思っている」と、スピーチの中で話した。
藤掛氏がこの賞を発案した背景には、日本のキリスト教カウンセリングの第一人者である平山正実氏との語り合いがあったという。「自分たちが死んだあと、キリスト教カウンセリングについて残せるものはあるだろうか」と考える中から生まれたアイデアだったという。2013年末に平山氏は天に召されたが、「この賞は平山先生に提出する宿題でもある」と藤掛氏は話す。授賞式では、出席者の口々から平山氏にまつわる思い出話も語られ、これまでのキリスト教カウンセリングの歩みを振り返るひとときともなった。
今回初めて設けられた「おふぃす・ふじかけ賞」。次回以降、どのように行っていくか具体的には決まっていないというが、2013年以前に発刊され、今なお流通している書籍の中から紹介する「発掘賞」など、さらに新しい取り組みも考えているという。