英国国教会の霊的最高指導者であるカンタベリー大主教ジャスティン・ウェルビーと、エジプトで最も権威ある学者でイスラム教の聖職者である、アズハル大学大イマム(最高指導者)のアフマド・タイイブ博士が10日、英ロンドンにあるカンタベリー大主教公邸のランベス宮殿で会談し、「平和の橋を築くための決断」を含む共同宣言を発表した。同日開いた記者会見では、過激派組織「イスラム国」(IS)についても触れ、宗教指導者が連帯し、政治的手段でISを打倒する必要があると訴えた。
両者は声明で、▼相互理解を深めるため、それぞれの信仰が愛や憐(あわ)れみ、正義、平和の重要性を教える宗教であることを伝える、▼過激主義やテロリズムの主張へ反論する相互努力をする、▼貧困、無知、疾病を根絶するため、社会正義と開発を進めることへのコミットメントを共有する、▼物質主義や人々の傷へ対する関心を削ぐ潮流に対して取り組むため、共通の価値を広げることに協働する、の4点を表明した。
ウェルビー大主教はこれまで、「過激主義とテロリズムの脅威に深く巻き込まれてしまっている」中東地域のキリスト教徒について公に懸念を表し、支援をしてきた。また、革命により、エジプトのホスニ・ムバラク元大統領が失脚した後、さらにムハンマド・モルシ前大統領が軍部のクーデターにより解任された時期から続いている、同国のコプト教徒への迫害に懸念を示してきた。ウェルビー大主教は会見で、「私は、この人道的な災害に苦しんでいる人々を擁護するため、英国の上院でそのことを話し続けます」と述べた。
エジプトではコプト教徒が人口の約10%を占めており、コプト正教会は中東地域では最も大きいキリスト教の教派となっている。ウェルビー大主教は、エジプトのイスラム指導者であるタイイブ博士を「ランベス宮殿にお迎えする、最も影響力あるイスラム教の指導者」として歓迎。タイイブ博士は、キリスト教徒を襲撃する者について「こういう人々はエジプトのイスラム教徒を代表しません。こういう人々はテロリストです」と述べ、強く非難した。
2人は、「この地域、また世界中で起こっていることについて優先的に対話すること」の必要のため、今回の会談に至ったと説明。タイイブ博士は、「イスラム教徒は憐(あわ)れみについて教え、キリスト教徒は愛と平和を教えます」と話した。
エジプトの首都カイロにあるアズハル大学は、1000年以上の歴史があり、イスラム教スンニ派の最高学府として知られている。大学だけではなく、モスクや他の教育施設も備えており、タイイブ博士は同大の元学長で、現在は大イマムとして、エジプト国内で大きな影響力を持っている。
これまでイスラム過激派への批判を繰り返してきたタイイブ博士は、この日の会見でもISについて触れ、強い口調で非難。「私たちは、中東地域で平和が実現するために、世界中からの助力を必要としています。私はダーイシュ(ISの別称)の背後に誰がいるのか知りませんし、どこから彼らが支援を得ているのか想像もつきません。アラブ諸国が犠牲となっている、大きなテロ組織があります。アラブ諸国と世界が、この組織を打倒するために一丸となって働かなければなりません。もしこの組織が長く存在するのであれば、近い将来そこら中に、ひいては全世界にはびこることになるかもしれません」と危機感を示した。ウェルビー大主教も、「明白なことは、宗教指導者が連帯し、政治的手段によってこの組織を打倒する必要があるということです」と付け加えた。
世界の聖公会の共同体である「アングリカン・コミュニオン」の中東地域での最高指導者である、ムニール・アニス主教もこの会見に同席した。タイイブ博士は、「もし宗教指導者である私たちの間に平和がないならば、この地が平和になることはないでしょう。イスラム教徒とキリスト教徒が1400年にわたり共に生きてきたように、40年間にわたり、私たちはアングリカン・コミュニオンの教会と共に平和のために働いてきました」と述べた。
アニス主教は、タイイブ博士がキリスト教徒を保護し過ぎているとして、エジプト国内の過激派から強い批判にさらされ続けていると説明。「私は問題を抱えると、大イマム(タイイブ博士)に話します。そして大イマムは介入してくれます」と言い、タイイブ博士のこれまでのキリスト教に対する手助けについて語った。
カンタベリー大主教とアズハル大学大イマムとの公式的な交流は、2001年に発生した米同時多発テロ(9・11)の翌年02年から始まった。タイイブ博士は今回、2日間の日程で訪英し、チャールズ皇太子とも面会した。両者は今後も継続した対話を続けていくとしており、今年12月にはアングリカン・コミュニオンの代表団がカイロを訪問する。