クリスチャン都道府県人会主催の「海外在住の日本人を愛する集会・海外の集い設立式」が5月30日、お茶の水クリスチャン・センター(東京都千代田区)で開かれた。欧米で研鑽(けんさん)を積んだピアニストの菅野万利子さんが、自身の証しを交えてピアノを演奏。また、シンガポールJCFの松本章宏牧師が来日し、使徒の働き8章に登場するピリポとエチオピア人の宦官(かんがん)のエピソードから、「海外でイエスに出会う」と題してメッセージした。海外在住経験者や海外で松本牧師とつながりを持った人々が多く参加し、海外にいる日本人、日本人教会のために祈る時を持った。
クリスチャン都道府県人会は、2012年に発足した、ふるさとを愛するクリスチャンのネットワーク。福音が日本全域に広がるようにと、それぞれの住む地域、出身地のための祈りを集会ごとに積み重ねてきている。日本だけでなく、長く滞在した思い入れのある世界の国や地域のために祈り、そこにいる日本人を覚える会として、今回、この海外の集いが設立された。
ユーオーディア・アカデミーの講師を務める菅野万利子さんは、バッハの教会カンタータ「主よ、人の望みの喜びよ」、映画『ミッション』から「ガブリエルのオーボエ」、イスラエル第二の国歌といわれる「黄金のエルサレム」など、多彩なレパートリーで全5曲を演奏。長年の母親の介護に疲れ、結婚や子育ての中で人生の羅針盤を失っていたという菅野さんは、友人の始めた家庭集会を通して救いに導かれた。しかし、救いを受け入れられたのは、学生時代に留学した米国で、多くのクリスチャンの友人と出会っていたからだと振り返る。若い時に、友人を通してまかれた御言葉の種が、家庭集会での学びによって次々と芽を出すような感覚を味わったという。イエス・キリストと出会ったことで、暗く混沌とした人生に光が差し込んだと証しする菅野さんは、宣教の広がるところに賛美があふれるように、これからも福音だけを賛美し続ける者でありたいと話した。
松本牧師は、宣教のために海外に出てから、今年でちょうど10年の節目を迎えるという。エチオピア人の宦官に遣わされたピリポが聞いたのと同じように、「立って、南へ行け」と神に語られた松本牧師は、それまで長年仕えていた札幌の母教会を出て、東南アジアへ向かうことを決意。全く行くあてがなかったにもかかわらず、ふと検索したインターネットで「ジャカルタ日本語教会が宣教師を急募」という記事が目にとまり、インドネシアのジャカルタJCFへと道が開かれたという。それ以降も驚くような数々の導きによって、アジアだけでなく世界中の日本人教会で働きをなしてきた。
この10年間の中で、日本にいたのならば絶対に会うようなことのなかった人々との、不思議な出会いを多く与えられたという松本牧師。この日は、ジャカルタで出会った人々も数多く参加しており、松本牧師はその一人ひとりの名前を呼んで再会を喜んだ。ジャカルタでイエス・キリストと出会った人、以前からクリスチャンだったけれどもジャカルタで信仰を再獲得した人、それぞれに神の大きな計画があったことが、松本牧師の思い出話から明らかになる。宦官とピリポがそうであったように、特に海外在住経験のある人々には、「あの場所で、もしあの人に出会わなければ今の私はなかったという出会いがあるでしょう」と松本牧師は語り掛け、「その出会いを作り出してくださったのは神様なのです」と語った。
宦官がピリポと出会ったのが、移動中の馬車の中であったことに触れた松本牧師は、「ゆれながら動いている」馬車が、海外日本人教会の在り方に似ていると話す。日本にある教会は、ゆりかごから墓場まで、地域に根ざしていることが非常に大切だが、人が絶えず入れ替わる海外日本人教会はそうはいかない。しかし、限られた期間に、その場所で、人生を変える出来事が起こる大きな可能性を秘めている、と松本牧師は確信に満ちた表情で語った。ピリポが出会ったとき、宦官は既にイエス・キリストを信じる土台が整えられていた。エチオピアからはるばるエルサレムにまで足を運び、イザヤ書を開いて神を求めていたのだ。松本牧師は、海外日本人教会に送られてくる人々も、「あとは信じるだけ」というところまで神がお膳立てをしてくださっているに違いないと信じて、福音を伝えていきたいと期待を込めて語った。
海外生活を終えて日本に帰って来た人々に、「かつてエチオピア人だった人たちは、今度はピリポになろうじゃありませんか」と呼び掛けた松本牧師。メッセージの最後に、ルカの福音書5章にあるイエスとペテロの出会いの場面を開いた。そこには、イエスの言葉どおりにペテロが湖に網を下ろしたところ、あまりに多くの魚が網に入り、舟が沈みそうになったため、仲間の別の舟と2そうでそれを引き上げたと書かれている。海外日本人教会の働きが単独ではなしえないと話す松本牧師は、この2そうの舟のように、日本の教会と力を合わせて網を引き上げる必要があるという。場所が遠く離れていても、簡単に連絡を取り続けられるようになった幸いな時代だからこそ、そのネットワークを強め、一緒に網を引き上げる者でありたいと思うと、力を込めて話した。
クリスチャン都道府県人会は、昨年11月に選出された「ふるさと48」による、「A(あんた)K(きて)B(びっくり)48(47都道府県+海外)」の結成を最大の目標に、今年の活動を進めている。代表の長谷川与志充牧師(東京JCF、三浦綾子読書会顧問)は、海外の集いのこれからの働きについて、「日本国内の海外出身者と在住経験者とのつながりをつくる働きを土台にしつつ、海外在住者とのネットワークを今後豊かに構築していきたい」と、展望を話してくれた。