「牧師」。それは、キリスト教のプロテスタントの教職者を指す用語。その牧師4人によるロックバンド「牧師ROCKS」がこの夏、初のフルアルバムをリリースする。教会の外で、ライブハウスなどに出没してキリストのパッションを歌う彼らの入魂の作品で、現在予約を受け付けている。また6月26日には、東京・下北沢のバーでアルバム発売を前に、リードギターの笠原光見(こうけん)牧師(日本ルーテル教団浦和ルーテル教会)とベースの関野和寛牧師(日本福音ルーテル東京教会)の2人が、「罪人(つみびと)限定ライブ」も行う。
牧師ROCKSは、当時はまだ神学生だった2人と牧師2人により、2013年に結成された。ライブで30人も動員できれば、ひとかどの存在といわれるインディーズ音楽シーンだが、牧師ROCKSのライブでは、収容人数200人以上の規模のライブハウスに、下は1歳の子どもから、上は90歳のおばあさんまで、幅広い年代のオーディエンスが性別問わず来場する。会場は収容人数いっぱいの観客であふれ、ステージの前は少し動いただけでモッシュが起こるほどの盛況ぶりだ。3月に行われた現役僧侶ら5人組の「坊主バンド」との対バンでは、130人の観客を集め、テレビや雑誌などにも取り上げられた。
しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。現在でもなお、一般的な教会に対するイメージを表す言葉として、3K(堅い・暗い・厳しい)というものがある。約50年前、日本の教会の状況を目の当たりにしたオランダの神学者ヘンドリー・クレーマーは、「日本の教会はかつて西洋の宣教師から与えられた固定観念や型に固執し、このような過去のイメージを聖なるもので変更など全く思いもよらぬものと考えている。だから宣教しようとしていながら、一般からは自己中心的で閉鎖的な生き方をしていると見られている。教会は日常生活の中にあってこそ、生きていくべきものなのだ」(日本基督教団宣教研究所『革新される教会』1961年発行から一部抜粋要約)と、強い口調で忠告している。それから半世紀たった今も、「3K」の雰囲気が残る日本のキリスト教界で、「ロック」を演奏した彼らへの風当たりも想像に難くない。
また、ロックといえば、“不良の音楽”という考えは一般でも今なお根強い。最近も、青山学院大学の学園祭で「メタル禁止令」とも取れる発表があり、物議を醸した。牧師ROCKSも、「演奏が激し過ぎる」「牧師のイメージに合わない」などの理由で出演を断られることもしばしばだという。
しかし彼らは、「堅くならないこと。常識にとらわれないこと。牧師だから“こうあるべき”と限定しないこと。壁を可能な限り取り払うこと」を目標に、教会の外に出て行き続けた。「ライブハウスに、懺悔(ざんげ)を聴いてくださいと言って来てくれる人もたくさんいる。誰もが本当の素の自分を、どこかで誰かに理解されたいと思っている。牧師がロックを通して、教会の外でそのような魂と触れ合えることはうれしい」と関野牧師は語る。一方、ドラムの市原悠史牧師(日本福音ルーテル甲府・諏訪教会)は、「万人受けしないことは、ロックであることの証しだと思う。たとえほんの一部の人たちであっても、心にちゃんと届いていれば、それで十分」と話す。
そんな彼らの次のアクションは、「罪人限定ライブ」。下北沢のバー「下北沢BREATH」で演奏する40人限定のステージだ。山梨県にいる市原牧師と、熊本県の日本福音ルーテル水俣・八代教会を牧会している関満能(みつちか)牧師はそろわず、全員集合とはいかないが、少数のハンディを逆手に取ってバーの雰囲気に合わせたステージになる。
宗教不問だが「善人入場不可」というこのライブでは、彼らの新たな一面が味わえることだろう。「既成の概念を超えていかないと届かない人がいる。日本にはまだ手を伸ばせていない人の方が多い。それなのにこれまでと同じことだけをやっていては何も実らない」と彼らは挑戦を続ける。
今年夏に発売予定のフルアルバムは、これまでライブで披露してきた曲に新曲を加えた計10曲を収録。その名も「ON THE ROCKS」。予約した先着100人の祈りや願いがアルバムの歌詞カードに刻まれる企画も(6月9日締め切り、残数わずか)。フルアルバム、罪人限定ライブの詳細は、牧師ROCKSのオフィシャルブログで。
■ アルバム『ON THE ROCKS』収録の「Underdog」(デモバージョン)