アイルランドで、国民投票により同性婚の合法化が決まったことを受け、同国のカトリック教会の大司教の一人であるディアミド・マーティン大司教は、カトリック教会に対し、この決定を単に「否定」するのではなく、「現実直視」をするよう強く勧めた。
アイルランドでは国民の8割以上がカトリックであり、カトリック教会の影響力は大きい。今回の国民投票で同国のカトリック教会は、同性婚を認める憲法改正に反対し、同国の大司教4人全員がそろって信者に対し、反対票を投じるよう呼び掛けていた。
カトリック教会が、結婚は一人の男性と一人の女性の間でのみ成立するという、伝統的価値観に固く立つよう呼び掛けたにもかかわらず、この改正案は投票全体の6割近くの賛成を受けて承認された。同性婚の賛成票が反対票を大きく上回ったという事実は、同国のカトリック教会にとって、ここ数年に明るみとなった聖職者による児童虐待などにより、教会の社会に対する影響力が低下してきている兆候として受け取られている。
同国で広く尊敬されているダブリン大司教区のマーティン大司教は、この敗北を潔く受け止め、教会が道徳的な権威としての地位を回復したいのであれば、今回の結果は、教会が若い世代と再びつながる必要があることを示していると述べた。
マーティン大司教は同国の公共放送RTEに対し、「私たちは現実を否定することに走るのではなく、立ち止まり、現実を直視しなければなりません。復活を遂げたい、否定したいという感覚を持っていては、再起することもできないでしょう。私はこの日、ゲイの方やレズビアンの方が感じたことを受け止め、尊重します。このことによって、その方々の生き方が豊かにされることでしょう。私はこれを社会変革と捉えています」と語った。
カトリックの教えに従い反対票を投じたマーティン大司教は、同性愛者の権利は尊重されるべきだが、それは「結婚の定義を変えることなく」なされるべきだと考えている。
マーティン大司教は、「私は、今回の国民投票で賛成票を投じた若い人のほとんどは、私たちのカトリックの学校で12年間教育を受けてきた人ではないかと自問しました。いかに教会のメッセージに取り組むかという点において、非常に大きな挑戦があるという意味です」と語った。
教会の教えを語っているにもかかわらず、同性婚に反対するメッセージを送ることができなかった同国のカトリックの教育システムの失敗は、カトリック教会そのものが直面している根本的な問題を示している。欧米諸国において、プロテスタント諸派や他の教派も同様の問題に直面している。英国国教会もまた同じだが、最近の英国の法律では、同教会が同性婚に関わることから「保護」されている。
若者は、宗教系の学校でも公立学校でも同様に、性別や性的志向にかかわらず、生存権や性的関係を結ぶ権利、全ての人が持っている尊厳など、その他の全ての人権において、人々の平等を尊重するよう教育を受けている。こうした中、若者にとって、多数派が信じている世俗的な信条と、年配の少数派が実践する宗教的教義に折り合いをつけて生活することは、不可能とはいえないまでもかなり難しくなってきている。
また、現代社会の教育文化の中で、教会が同性婚反対の立場を堅持することは、時代の潮流に乗り遅れているとの認識が、教会の指導者たちの間にも広まっている。
英国のデイビッド・キャメロン首相は、この投票結果を歓迎するキリスト教徒の一人だ。キャメロン首相はツイッターに、「アイルランドの皆様、おめでとうございます。同性婚の国民投票を通して、皆様は同性愛者とそうでない人が平等であるという立場を明白にしました」と投稿した。
今回の国民投票では、有権者の61%に当たる約195万人が投票した。この数字は、1998年のベルファスト合意の是非を問う住民投票の投票率56%を上回る数字だ。憲法改正後の初の同性婚は、今年末にも行われる予定。