PAZキリスト宣教団登戸エクレシアキリスト教会(神奈川県川崎市)が主催する第6回「東工大名誉教授と語り合うティーサロン」が16日午後、同教会で開かれた。東京工業大学名誉教授の物理学者、阿部正紀氏が講師として招かれ、「進化論 / 創造論の謎―DNAと遺伝子の驚異から考えよう!」と題して講演した。阿部氏は、これまで取り上げてきた「パラダイム論」「進化論パラダイム」「DNAと遺伝子」の復習から話を始め、今回のテーマである「エピジェネティクス(後天的遺伝)」「DNAと染色体の複雑な仕組み」について講義した。パワーポイントと模型を使って解説を進める座学形式のイベントで、「お茶を飲みながら楽しくやりましょう」と言う阿部氏に、参加者はお茶を片手に話を聞き、分からない点があれば、手を挙げて積極的に質問を投げ掛けた。
阿部氏は、進化論は「偶然が、あたかも知的存在者がデザインしたかのように見える生命と生体の、驚くべき秩序と機能を作り出してきた」とする考えである一方、創造論は「生物は、創造主のデザインによって創造時に与えられた遺伝子を発現させることによって、環境に適応してきた」とする考えであると説明。「どちらが最も満足のゆく説明だろうか」と問い掛け、講演を通してそれを見極めるための材料を提示した。
進化論も創造論も、どちらも一つのパラダイムという点では対等な立場。パラダイムとは、ある時代に科学者集団によって受け入れられている、世界観を変えるような重要な理論のこと。その根底にある世界観は、「証明できないが議論の前提とする公理」のようなもので、多数の科学者が受け入れることで正しいとされる。進化論は「自然界には超自然的な働きは一切存在しない」という世界観に立つパラダイム、一方の創造論は「自然界は神の超自然的な働きで存在させられた」という異なった世界観に立つパラダイムである。この2つのパラダイムの優劣を、客観的・公平に判断することはできず、各自がどちらかを選ぶことになる、と阿部氏は説明する。
進化論は、進化の原動力を、遺伝子で起きるDNAのミスコピー(すなわち突然変異)だと主張するが、阿部氏が今回解説した「エピジェネティクス(後天的遺伝)」は、それに対する一つの反証だ。エピジェネティクスとは、DNAそのものに変化はないが、遺伝子の働きに変化が起こり、それが遺伝することがあるという現象。たとえば、「戦後の日本人の身長が伸びた」という事象について、エピジェネティクスで説明すると、「戦後の世代の食生活が改善されたことで、『身長増加に関わる遺伝子』がオフからオンに変化し、オン状態のままで、親から子へと遺伝した」ということになる。重要なのは、生物は生存に必要な遺伝子が誕生の時から与えられており、DNAを変えることなく遺伝子のスイッチをオン・オフと切り換えることで、環境に適応してきたという点だ。
「DNAと染色体の複雑な仕組み」についても解説した阿部氏。ヒトは、200種以上60兆個の細胞で構成され、細胞1つずつ全てにDNA(46個の染色体)が含まれている。毎日約3千億個の細胞が死に、それと同時に新しい細胞が作られている。細胞は分裂することで増殖するが、その際、人間が簡単には理解することができないような驚くべき方法でDNAを複製するという。その複製方法を、「手品のようだ」と表現する阿部氏は、自身が考案した模型教材を使って、その複製の様子を模擬的に実演した。生命活動の神秘、生体に備わっている複雑な仕組みを垣間見た参加者の口からは、「不思議だ」という驚きのため息が漏れた。
エピジェネティクス、DNAと染色体の複製のメカニズム、この2つを取っても、DNAのミスコピーが進化の原動力だとする進化論は反証されていると阿部氏は言う。反証されているのにもかかわらず、進化論が信じ続けられているのは、それが特定の世界観に基づいたパラダイムであるから。反証された理論は手直しされ、パラダイムそのものは生きのびるのだという。進化論を信じる人、創造論を信じる人が、互いにそれぞれのパラダイムの中で自説の正しさを主張し、相手の考えを「間違ってる」「愚かだ」と思っているのが実情、と語った。
講義の最後に、自身の救いの証しを話した阿部氏。「迷信なんかを信じて」と内心馬鹿にしていたクリスチャンの同級生から、文化祭で聖書研究会の証し集をもらったことがきっかけだった。そこに書かれていた「十字架の言葉は、滅んでいく者にとっては愚かなものですが・・・」という聖書の言葉に目がとまった。「神を馬鹿にしている自分は滅びていく者なのか」という、頭を殴られたような衝撃を受け、救いへの歩みを踏み出したという。
高校3年生でクリスチャンになるまで、自身も完全な進化論者だったという阿部氏は、「神を信じられない人が進化論を受け入れるのは当然のことだ」と話す。神が存在しないのなら、“神抜き”の自然法則だけで生物の起源を説明しなければならないからだ。また、理屈だけではなく、体験も伴わなければ神を信じることは難しい。理論で構築される科学の世界で生きる人々は、体験で神を知るまでは、神を信じることがとても難しいのだ、と語った。
約30人の参加者は、阿部氏の話を受けて、「人間の生命は、複雑で精巧だと思った」「エピジェネティクスと進化論の考え方の違いがとても分かりやすかった」「DNAの複製のシステムは、とてもよくできているのが分かった」などと感想を話してくれた。また、「DNAはほとんど変わっていないという点についてもっと知りたい」「先生がイエス・キリストを信じるまでの証しの続きを聞きたい」「聖書的に、人間とその他の動植物がどう位置付けられているのか、先生の考えを聞いてみたい」と、次回に向けての意欲的な要望も聞かれた。
次回の第7回ティーサロンは、「進化論と創造論の謎―“造化の妙”と生物模倣技術から考えよう!」(仮題)と題して、9月5日(土)午後2時~4時に開催される予定。「不思議に満ちた生命と生物は、偶然ではなく、知的存在によって作られたと考えるのが『最も満足がゆく説明』のはずなのに、なぜ多くの科学者はそう考えないのでしょうか? 進化論と創造論について、ご一緒に考えましょう」と参加を呼び掛けている。
詳細・問い合わせは、同教会の担当・佐野さん(080・5170・4014)まで。