本書は、福島県キリスト教連絡会(FCC)代表で福島県キリスト教子ども保養プロジェクト(ふくしまHOPEプロジェクト)代表の木田惠嗣牧師(郡山キリスト福音教会)と、日本同盟基督教団震災復興支援本部事務局長でふくしまHOPEプロジェクト事務局長の朝岡勝牧師(日本同盟基督教団徳丸町キリスト教会)の対談を収録した新しい本である。
朝岡牧師が行ったインタビューに木田牧師が答える形で、20数年にわたって福島で生きてきた木田牧師が、2011年3月11日の東日本大震災により原発事故が起きた福島で、どのようなことに悩み、葛藤し、考えてきたかを語っている。
「東日本大震災が起きてから三年余、今さら、震災関連の本をだれが読むのだろうか?まして、この私が対談をして本を出すことに価値があるのだろうか?」などと、たびたび心が揺れたと、木田牧師はこの本のはじめに記している。
しかしこの本は、あの震災は決してまだ終わったわけではなく、福島で生きている人たちの被曝による「危険」と「安全」をめぐる分断という現実や苦悩、福島で生きていくという覚悟、そしてそのただ中にある教会の働きを、そこに生き、あるいは支援活動をしてきた2人の牧師の肉声を通じて伝えている。
とりわけ福島から離れたところで暮らしている人たちにとっても、それは今も貴重な声ではないだろうか。今、そしてこれからの福島に関心を持ち続け、木田牧師の言う「真実を見抜く識別力」を身につける上で、この本は依然として重要な情報源であるはずだ。
90ページ余にわたって話し言葉で書かれた、このブックレットの内容は、分かりやすく、かつ公平であり、読みやすい。個人や教会、キリスト教主義学校などで幅広く読まれることをお勧めしたい。
なお、筆者は2013年11月に韓国で行われたキリスト者のある国際的な集会で、木田牧師による福島についての講演を聞いたが、この本を通して、福島の現状についての認識を新たにしただけでなく、木田牧師と朝岡牧師の生き方に心を揺り動かされた。
関連図書として、福島県キリスト教連絡会編『フクシマのあの日・あの時を語る』(いのちのことば社、2013年)と、福島県キリスト教連絡会編・日本福音同盟宣教委員会編『フクシマを共に生きる〜「宣教フォーラム・福島」より』(同、2014年)がある。
今年も再びあの3月11日を迎える。これらの関連図書も併せて読むことで、私たちは福島で生きていくことの意味を、どれだけ共有できるだろうか。
『福島で生きていく』:木田惠嗣・朝岡勝著、いのちのことば社、2014年12月1日発行、定価900円(税抜)