(せーのォ!)「カトラジ!!」 毎週土曜日の夜11時、動画サイト「ユーチューブ(YouTube)」から、若者の元気な掛け声が聴こえてくる。“日本初、カトリック青年によるインターネットラジオ!”のキャッチコピーで、今秋スタートした約30分のラジオ番組「カトラジ!」だ。きょう(12月13日)の放送で13回目(過去の放送もユーチューブで配信中)の放送となる。
メーンパーソナリティーの2人をはじめスタッフもだいぶん場慣れし、番組の精度も上がってきたが、実は全員がラジオ初挑戦の素人。今を生きる若い日本のカトリック信徒として、教会に通っている人にも、最近行けていない人にも、キリスト教のことを全く知らない人にも、とにかく福音を少しでも多くの人に伝えたいという熱い思いで、2000年の歩みを経たカトリックの伝統に新風を吹き込んでいる。
♪ジャーンジャジャジャーン、ジャーンジャンジャンジャン♪♬ 「カトラジ!!」の掛け声と共に、エレキギターをベースにした賑やかなイントロが鳴り響く。続いてすぐに、「こんばんは〜」と爽やかな声をリスナーに届けるのは、20歳の会社員、トオルさんと、大学4年生の愛(まな)さん。2人の楽しい掛け合いトークが終始、番組を盛り上げる。
20人を超えるスタッフは、全員が関東近郊に住むカトリックの青年。18歳の大学生から36歳の社会人までの未婚の男女が、何らかの形で番組づくりに関わっている。トオルさん、愛さんをはじめ番組のさまざまなコーナー(コンテンツ)を実際に受け持ち、出演するのは20代まで。30代以上は広報や財務関係などを担当し、黒子に徹している。トオルさんのように青年になってから受洗したメンバーもいるが、大半は幼児洗礼。地方から上京してきたばかりの大学生や社会人では、理学療法士、保育士さん、中学校の教員、スポーツジムのインストラクターなどさまざまな分野で活躍する青年が、仕事や学業に精を出す傍ら、このカトラジにもまさに真剣に向き合っている。
きっかけは1990年代からカトリックの青年活動を積極的に行ってきた、“先輩青年”たちの提案だった。最初は飲みながらの雑談だったのが、段々と話が具体化。当初から関わってきた、「カトラジ!」代表で、「SIGNIS JAPAN(シグニス・ジャパン=カトリックメディア協議会)」のスタッフでもある杉野希都(のぞみ)さん(27)は、「実は、日本以外の海外では教会の援助で青年たちが福音を発信する動きが活発なんです。僕自身、今年の2月にローマであったシグニスの世界大会に行ったとき、そうした活動をしている子たちと関わって、日本でもやりたいなあと強く思うようになりました。そうだ、インターネットラジオならある意味簡易にできる、よし、やろうということになったんです」と振り返る。
ここでさらに青年たちの背中を押したのが、カトリックの総本山、バチカンから支援金を受けられるかもしれないという可能性だった。バチカンは、「世界広報の日」に世界中の教会から集めた献金をもとに、世界各国の福音宣教に力を発揮しているプロジェクトに対して支援金を贈っており、受けてみないかという話が舞い込んだのだ。4月からそのための準備を行い、9月の番組開始を前に SIGNIS・JAPAN を通じて申請した。
財務担当のメンバーによると、「実は支援が決まったとしても、一体どれほどの額がいただけるのか、全く分かっていない」そうだが、「たとえ小額でも、スタジオの使用料や取材費などの一部に充てられると思うと嬉しい」と、選ばれることで活動に弾みがつくことを期待している。既に SIGNIS・ASIA による選抜は通過しており、「相当頑張って企画書もまとめたのできっと選考されるはず」とバチカンからの朗報を待ち望みつつ、番組づくりに励んでいる。またこれとは別に、このほど SIGNIS・ASIA によるメディアコンペのラジオ部門での優勝が決まったそうで、メンバーのやる気はますます高まっているようだ。
もっとも番組を始めるにあたっては、メンバー全員が素人のため、まずは3、4カ月間の研修期間を必要とした。スタッフ内のオーディションでメーンパーソナリティーに選ばれた2人はプロのDJの指導をみっちり受け、その他のメンバーも各方面の協力で台本書きやコンテンツづくりなどの訓練を積み、最低限の技術を習得。初回の生放送は全員が緊張でこちこちだったが、回数を重ねるに連れ、内容もトークも目に見えて充実してきている。
まとめて数回分を収録するという11月下旬、都内某所のスタジオを訪ねた。開始時間の午後7時には、既にトオルさんと愛さんはガラスの向こうの収録室で打ち合わせ中。ヘッドホンをかぶった機材係の学生スタッフ数人も準備に余念がない。スタジオ内には所狭しと椅子が置かれ、テーブルの上にはお菓子やパンなど、小腹を満たすのにぴったりな差し入れがいっぱいだ。7時をいくらか回り、会社帰りのスタッフが1人、2人と姿を現し始めたところで、いよいよ本番へ。
「はい、スタート」。ディレクターの合図でガラスの向こうの2人が話し出した。2人の掛け合いはスタジオ内の全員に聴こえ、おかしな流れになっていないか、言葉を間違っていないか、みんなで耳を澄ます。一つのやり取りが無事に終わると、スタジオの隅に座ったスタッフからとっても可愛い「OK」のサインが。もっとも、ほっと息をつく暇もなく、「さあ、次行こうか」と次の収録に。スタッフが集まり、スタジオが借りられる日は限られているだけに、少しでも多く撮りだめしておく必要があるのだ。
番組を貫く大きなテーマは、「福音宣教のセンスを養う」「神様のメッセージを伝える」「リスナーと一緒にコミュニティーをつくる」の3つ。これをもとにメンバー全員で内容を練り上げ、「お悩み相談室」「あなたのそばの神様発見!」「カトリック大喜利」「妄想!!使徒的24時!」「カトリック共同祈願」「今月の一曲」「シネマの晩餐」などさまざまなコンテンツをつくっている。
番組は毎回、約30分の中にこの幾つかを織り込む形で進められるが、スタジオで収録するのは主に2人の掛け合いの部分。この日は、何かの場面で誰かがみんなで歌った聖歌の一節を流す「今月の一曲」コーナーの収録から始まり、今年、東京カテドラル関口教会で行われたインターナショナルミサで、各国から来た信徒が心を一つに歌った「アレルヤ・ギブ・ザ・グローリー」を選曲した。
歌が終わると、「トオル君の教会にもいろんな国の人が来る?」「うん。来るよ。ポーランドやフィリピンの人とか」「日本語は話せるの?」「そう。普通に一緒に御ミサにあずかって、元気だった?って話もするよ」「そうなんだ。うちの教会でも韓国語のミサがあったりして、日本語はほとんど喋(しゃべ)れないけど郷土料理を作ってくれたりとかする」「インターナショナルミサは楽しいよね」と、話は自然に教会での外国人との触れ合いにつながっていった。
各コンテンツの内容はまさにバラエティー豊か。くだけたものでは、番組側が指定した教会や聖書に関する“お題”に対してリスナーから寄せられた回答を紹介する「カトリック大喜利」や、キリストの使徒たちの行動をリスナーが勝手に妄想し、その目撃情報を伝える「妄想!!使徒的24時」などがある。
例えば、「カトリック大喜利」では、「フランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸したとき、初めて発した言葉は?」というお題に対し、「おーい、お茶!」「ザビエルが鹿児島にクル〜〜」といったふざけた回答が寄せられ、スタッフが「長旅で喉がかわいて、叫ばずにいられなかったのかなあ。鹿児島はお茶の産地だからね。はい座布団2枚!」「ザビエルってお笑い芸人だったのか?まあ、笑いをとりながら布教したのかもね」などと返してさらに笑いを取りながら進める。
一方、「妄想!!使徒的24時」では、「これはあくまで妄想上のネタであり、使徒たち本人には一切関係ございませんので、使徒たちが実際どのようなことを行ったかは新約聖書でご確認ください」とした上で、リスナーの目撃談を紹介。初回は、「あのパウロさまが、駅前の某ステーキチェーンでサーロインステーキ1キロをたいらげていました」というものや、「最近、マタイさんが元気がありません。消費税が8パーセントになってみんなが愚痴っていることが、徴税人だったマタイさんには堪えられないようです」といった時事ネタを絡めた(?)投稿が読まれ、トオルさんと愛ちゃんも苦笑い。こうした今どきの若い子らしい普通さ、軽いノリがあってこその“挑戦”。それが「カトラジ!」なのだ。
このちょっとやり過ぎでは?とも思えるコーナーについてメンバーの一人は、「それぞれのコンテンツづくりには学生だけでなく、必ず社会人を入れてどうやって質を担保するか、という問題にも向き合ってます。中には、『こんなふざけた企画、いつか打ち切りにしてやるからな』っていうのもないこともないけど、あの軽さが好き、というリスナーの声も聞こえてきたりして、やっぱり必要かなと思い直したり。そういうところにやっぱりカトリックの層の厚さを感じますよね。多様性の中の一致というのかな」と笑いながらも真面目に話す。
もちろん番組は、学生と社会人だけでつくっているわけではない。そこには心強く温かい、監督者であり支援者でもある司祭(神父)という大きな存在がある。そしてもちろんその背後には全てを委ね、信じている「神様」という大きな大きなバックボーンがある。(続く)
■ 青年によるカトリックラジオ「カトラジ!」:(1)(2)