同志社大学今出川キャンパス(京都市上京区)で12日から3日間にわたり、宗教に関する学会としては国内最大である日本宗教学会の第73回学術大会が開催された。
3日間で行なわれた研究発表のテーマは約270に上り、約20のパネルディスカッションが行なわれた。全体を通して、グローバル化が進み宗教や信仰が移り変わる中、生命倫理や国際政治、社会に対して、宗教がどう対話し対応していくかについての問題意識が強く感じられる内容であった。
12日には、「宗教と対話—多文化共生社会の中で—」と題して公開シンポジウムが行われ、「国際政治から見た宗教研究への期待」「国際政治から見た宗教研究への期待」「社会福祉とスピリチャリティ」などの講演に続き、島薗進氏(上智大学教授、東京大学名誉教授)、村田晃嗣氏(同志社大学学長、法学部教授)などによるパネルディスカッションが行われた。
13日と14日は計14の部会に別れ、宗教学、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、神道、禅、日蓮宗、浄土真宗、親鸞、宗教間対話、ヒンドゥー教、チベット仏教、ゾロアスター教、国学、修験道、山岳信仰、儒学、天理教、金光教、シャーマニズムなど約270のテーマに関する研究発表が行われた。キリスト教を主題としたものも、内村鑑三、賀川豊彦、ペンテコスタリズム、韓国系キリスト教、切支丹史、聖書学など多彩な発表が行なわれた。
「フランスの看取りにおけるライシテとスピリチュアリティの拮抗」と題した発表では、政教分離原則が徹底したフランスにおいて、ホスピスでスピリチュアルケアをいかに構築しようとしているかの事例が紹介されるなど、医療と宗教性の関わりについての発表も多く見られた。
複数の研究者が一つのテーマを共有し行われるパネルディスカッションでは、宗教間対話、宗教における身体性、東日本大震災後のスピリチュアリティのあり方、現代のイスラム運動、ホスピスにおける緩和ケアと宗教者、ポスト世俗化時代における神学のあり方など約20種類が開催された。
今年生誕100年を迎え慶應大学出版会から全集が出版され、米ハーバード大学やイランなどイスラム圏の大学など海外での研究も増えている、コーランの翻訳者として知られるイスラム学者・井筒俊彦(1914〜1993)の思想を、言語学、東洋哲学、神秘主義などから新たな形として捉えなおそうとする発表も行われた。
「日本におけるインドシナ難民の受け入れ・定住化とカトリック教会」「カトリック教会とデカセギたち」と題した発表では、ニューカマー(new comer)と呼ばれる定住外国人のキリスト教信仰の実体について、社会学者が数年間続けてきた調査をもとに発表が行われた。
日本ではこれまで、1970年代のインドシナ難民受け入れ事業として始まったベトナム人や、1980年代以降のデカセギ(出稼ぎ)のために来日したフィリピン人、日系ブラジル人といった定住外国人の人口が増加してきた。こうした中で、教会が生活支援と信仰のサポートをどのように行ってきたか、外国籍信徒に配慮したミサのあり方、日本生れの若い世代への信仰継承がどのようになされるのか、カリスマ刷新運動が日本の教会にどのようにインパクトを与えていくかなど、実証的な分析をもとに紹介がなされ、日本の教会が多文化共生のためにどのように取り組んできたかについて活発な議論が交わされた。
1930年に設立された日本宗教学会は、現在国内外に約2100人の会員を抱えている。毎年秋に開催される学術大会は、東京地域とそれ以外の地域で一年おきに開催され、昨年は国学院大学(東京都渋谷区)で開催された。同志社大学での開催は、1953年の第13回大会以来、61年ぶり2回目。