朝日新聞は、5・6日両日付の同紙朝刊で、特集「慰安婦問題を考える」(上・下)を掲載した。5日の紙面では、当時、慰安婦の強制連行を根拠付けた吉田晴治氏による証言を扱った記事について、「(証言は)虚偽だと判断し、記事を取り消します。当時、虚偽の証言を見抜けませんでした」と述べ、取り消した。
また、5日1面の記事「慰安婦問題の本質 直視を」では、「裏付け取材が不十分だった点は反省します」としながらも、「戦時中、日本軍兵士らの性の相手を強いられた女性がいた事実を取り消すことはできません。慰安婦として自由を奪われ、女性としての尊厳を踏みにじられたことが問題の本質なのです」と主張。「隣国と未来志向の安定した関係を築くには慰安婦問題は避けて通れない課題の一つです。私たちはこれからも変わらない姿勢でこの問題を報じ続けます」と伝えた。
5日の「慰安婦問題を考える」(上)では、慰安婦問題のQ&A、当時の他紙の報道比較などと共に、読者からの疑問に答えるかたちで、1)強制連行の有無、2)吉田氏による証言、3)宮沢喜一首相(当時)訪韓直前報道の意図性、4)慰安婦と女子挺身隊との混同、5)元慰安婦の初証言記事の公正さ、の5点について取り上げ検証を行なった。
1)ついては、強制連行の定義が、「ひとさらい」的連行に限定する狭義のものと、「軍または総督府が選定した業者が、略取、誘拐や人身売買により連行」した場合も含むという広義のものがあり、今も研究者の間で意見が別れていると説明。その上で、「軍などが組織的にひとさらいのように連行した資料は見つかっていません」とした。だが、「問題の本質は、軍の関与がなければ成立しなかった慰安所で女性が自由を奪われ、尊厳が傷つけられたこと」「女性たちが本人の意に反して慰安婦にされる強制性があった」と伝えた。
3)と5)については、それぞれ「宮沢首相の訪韓時期を狙ったわけではありません」「意図的な事実のねじ曲げなどはありません」と指摘を否定。4)については、誤用したことを認めた。
一方、6日の「慰安婦問題を考える」(下)では、慰安婦問題がどのように政治・外交問題化したのかを、河野談話(1993年)、アジア女性基金(1995〜2002)、韓国憲法裁判所の違憲判決(2011)などを軸に、時系列に沿って解説。さらに、米国からの視線として、日本い詳しい米大学教授2人の主張を掲載。また、事前に特集記事を読んだ慰安婦問題に詳しい専門家3人の主張を載せた。
専門家の1人である秦郁彦氏(現代史家)は、「20数年にわたり慰安婦報道を終始リードした観のある朝日新聞が、遅ればせながら過去の報道ぶりについて事後検証したことをまず、評価したい」とする一方、「彼女たちの稼ぎは兵士の数十倍という高収入で故郷へ送金していたし、廃業帰国や接客拒否の自由もあった。奴隷とは言いかねるのに、なぜか国際常識化しかけている性奴隷説に朝日は追随しようとしているかに見える」などと述べた。
吉見義明氏(中央大学教授)は、「(吉田氏の)証言が虚偽でもこの(慰安婦)問題に与える影響はない。今回、関連する記事を訂正したことには賛成するが、問題の研究が進んだ1990年代の早い段階でできなかったのかと残念に思う」「問題と感じたのは、今回の紙面を読んでも、慰安婦問題の何が課題で、何をする必要があるのか、朝日新聞が考える解決策が見えてこないことだ。被害者に寄り添う姿勢が紙面からうかがえない」と指摘した。
小熊英二氏(慶応義塾大学教授)は、「大きな変化を念頭にこの問題をみると、20年前の新聞記事に誤報があったかどうかは、枝葉末節にすぎない。とはいえ、(中略)新聞が自らの報道を点検したのは意義がある」「この問題に関する日本の議論はおよそガラパゴス的だ。日本の保守派には、軍人や役人が直接に女性を連行したか否かだけを論点にし、それがなければ日本には責任がないと主張する人がいる。だが、そんな論点は、日本以外では問題にされていない」などと語った。
慰安婦問題については、国内外のキリスト教会でも取り上げられている。世界教会協議会(WCC)が今年6月にスイス・ジュネーブで開いたイベントでは、元慰安婦が発題者の一人として出席。第二次世界大戦中の自らの体験を語った。同じく6月に、スイスのシャトー・ド・ボッセでWCCの支援を受けて開かれた朝鮮半島和平に関する国際会議では、北朝鮮や韓国を含む15カ国から34の教会と関連団体の指導者が参加し、共同宣言を発表。この宣言の中では、「私たちは日本政府に対し、軍による性奴隷制(従軍慰安婦)の暴虐を認め、真摯かつ正直な謝罪を示し、被害者に償うための補償的措置を行うよう、強く要求する」と求めた。
一方、日本基督教団と在日大韓基督教会は今月1日、共同で「2014年平和メッセージ」を発表。この中で慰安婦問題も言及し、「わたしたちは、『従軍慰安婦』問題に関する日本政府の責任回避的な姿勢に抗議し、1日も早く被害者女性たちに日本政府による真実な謝罪と公的な補償がなされることを求めます」とした。
また、今月14から18日にわって韓国を訪れるローマ教皇は、18日にはソウルの明洞大聖堂で行われる「朝鮮半島の平和と和解のためのミサ」に出席する。このミサには、元慰安婦も招待されており、教皇と元慰安婦たちとの面会が予定されていると伝えられている。
朝日新聞の特集「慰安婦問題を考える」は、同紙電子版でも公開されている。