「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界遺産登録を目指している長崎県が、新しいウェブサイト「Oratio おらしょ こころ旅」(http://oratio.jp)を作成した。教会施設や歴史の案内にとどまらず、今に生きる祈りの姿や信徒の人々に取材したコラムなどを、美しい写真とともに親しみやすい文体で紹介している。
「Oratio」はラテン語で「祈り」を意味する。サイトには教会堂見学の際のマナーなどもまとめられており、観光地である前に、地元の人々の聖地であり祈りの場であることを訴える内容になっている。教会堂の建築物や歴史の概要を紹介するサイトはこれまでもあったが、外面的な情報にとどまらない価値観や現代に続く伝統にも焦点を当てて、キリスト教信仰への敬意と理解を伝えるものとなっている。
サイトを開設した長崎県世界遺産登録推進課の担当者によると、施設周辺で一部の観光客が騒いだり、心ない落書きをしたりする行為が見受けられることがあった。断りなく祭壇上の聖書に触れたり、鐘を鳴らしたりといった礼儀に反する事例も報告されており、世界遺産候補の貴重な文化財を守るためにも、マナーの向上を呼びかけることが急務と考えられた。
「教会堂見学時のマナー」と題されたページには、「教会堂は信者の方々の大切な祈りの場であり、観光施設ではありません」「祭壇があり一段高くなっている内陣は、最も神聖な場所です。絶対に立ち入らないようにしましょう」「聖書や鐘などは信者の方々がとても大切にしています。また、聖水はこころを清めるためのものです。むやみに手を触れないようにしましょう」と具体的な注意点が示されている。
サイトの見どころの一つが「コラム」。あまり知られていない聖地、礼拝施設、伝統文化などについての文章と写真からなる小さな記事150本ほどが掲載されている。「信仰のすがた」「受け継がれる風景」「祈りのふるさとを語る」などに項目分けされ、見出しには「教会は生きるための原点」「新天地をめざした信徒たち」「20年前に途絶えた儀式」といった記事が並ぶ。
「信仰の姿を通してキリスト教の物語を紹介することに重点を置いた」と長崎県の担当者は説明する。長崎とその教会群は、「隠れキリシタン」と「信徒発見」(1865年)の逸話によってキリスト教史上の奇跡として世界に知られ、最近は韓国をはじめとする外国人の来訪も増えている。海外からの観光客向けに、サイトの英語版や韓国語版なども公開を予定しているという。
長崎県は2016年のユネスコ世界文化遺産登録を見据えて、対象としている13教会のうち9教会に、見守りや簡単なガイドなどを行う「教会守」(きょうかいもり)を置く予算措置を進めている。今年3月からは試験的な先行配置として、出津教会堂(長崎市)と田平天主堂(平戸市)にそれぞれ1人ずつ「教会守」の委嘱を始めた(田平天主堂ではサポートの3人を含む)。
「教会守」は信徒の年配男性が務め、見学時間の朝9時から夕方5時まで、観光客の対応と案内などを行っている。長崎県は教会側と協議しながら管理体制を整備し、残りの7教会にも「教会守」を配置していく考えだ。出津、田平の教会ともに700人ほどの信徒がいるが、信徒数の少ない教会では非信徒の地域住民に委嘱することも考えられている。
一方、教会関係者からは「諸手を挙げての受け入れではない」という声もある。教会を守っていく体制づくりは不可欠ながら、「祈りの場よりも文化財として扱われる違和感」「より観光地化されていくことへの疑問」を覚える信徒もいる。世界“遺産”候補と呼ばれ、なおかつ「現役の信仰の場所」でもあり続けるための、最善を模索する試みが続けられている。
■ Oratio おらしょ こころ旅
http://oratio.jp
http://oratio.jp/manners(教会堂見学時のマナー)