ブッシュ米大統領は3日、隠密行動でイラク入りし、西部アンバル州にあるアルアサド空軍基地を訪問した。ブッシュ大統領は滞在中、イラク国内の諸宗教間の和解に向けた動きについて触れ、楽観的な見解を示した。
大統領のイラク訪問は、イラクでの紛争解決に当たっている米国の最高司令官であるデイビット・H・ペトロース将軍によって連邦議会に報告されていた日程よりも1週間早い形で行われた。ブッシュ大統領は、イラクに駐留している米軍兵士や報道関係者に対し、同州での成功と、スンニ派とシーア派による対立がより激しい他の地域で、同州が一つのモデルとなることへの希望を示した。ニューヨークタイムズ紙によると、ブッシュ大統領は「アンバル州の地に立ち、住民の声を聞けば、イラクの未来がどのようなものになるかわかる」と語った。
スンニ派が支配的な同州ではここ2ヶ月間、イラクの他の地域では見られない、安定した平和な状態が続いている。地元住民は爆撃などを恐れることなく、外に出て車を洗うこともできるという。これは、米国軍と協力するスンニ派の部族指導者らが、過去に同州西部にいたアルカイダ関連の過激派を追放したためと見られている。同州における米軍兵士の死者数は、昨年12月には40人に上ったが、今年7月には4人まで減少している。
このような和解に向けての進展が見られる一方、ブッシュ政権や米国の連邦議会に対しては、「イラク国内で虐待を受け続けている宗教的少数派を無視している」、「少数派を『重要ではない』と見なしている」との非難が絶えない。
米国国際自由委員会(USCIRF)のニナ・シー氏は最近のワシントンポスト紙のコラムで、「彼ら(宗教的少数派)は、テロを支援することはないが、政治的権力も強力な宗教的協力関係も持っていない。彼らは対立を起さないため、無視された状態にある」と述べている。「彼ら(宗教的少数派)は激しい攻撃やイスラム教徒の権力闘争による影響を受けるばかりでなく、スンニ派やシーア派、クルド人などの過激派の標的にされている」と指摘する。
イラクのキリスト教徒は規模は小さいながらも事業を行っているため、しばしば身代金を目的とした誘拐の標的となる。USCIRFの報告によると、キリスト教徒は、その指導者の暗殺、爆撃、教会の破壊、殺害するという脅迫などで苦しめられている。シー氏は、「米国は彼ら(宗教的少数派)を保護、救出する政策を立てていない」と非難する。
結果的に、アッシリア人やカルデア人を中心とするイラクのキリスト教徒は、イラクから逃げざるをえない状況にある。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、イラクから避難した難民の約半数がキリスト教徒であるとみている。イラクのキリスト教徒は人口の約3パーセントに過ぎない。UNHCR によると、イラクの人口2600万人のうち約400万人が、03年の米国による攻撃以来イラクを離れたとされている。
以前USCIRFにいたキャノン・アンドレ・ホワイト氏は、「状況はさらに絶望的だ」と語る。ホワイト氏は、バグダットで米国国防省の支援を受け、異宗教間の和解に向けて活動を組織している約1300人の信徒を抱える聖ジョージ英国国教会の牧師。元々英国出身である同氏は、「活動はキリスト教徒を失望させるものだった。我々はキリスト教徒に対して何も支援することが出来なかったばかりか、彼らの苦しみを増してしまった」と嘆く。ホワイト氏は、7月だけでも36人が誘拐され、その内1人しか戻ってきていない状況を挙げ、キリスト教徒に対する暴力は増え続けていると強調する。
ブッシュ政権は、増派効果を含めイラク情勢の報告を15日までに連邦議会に提出することになっている。