「クリスチャンフォビア」(Christianophobia)という言葉をご存じだろうか。「クリスチャンへの嫌悪」を意味し、「キリスト嫌悪」(Christophobia)、「反キリスト教感情」(Anti-Christian sentiment)などと称されることもある。
中東や中国での話ではなく、欧米においては移民問題や社会的な価値観の変化などを受けてその火種がくすぶり、再燃することがある。近年ではLGBT(同性愛者やトランスジェンダーの総称)の対応をめぐり、キリスト教や教会が攻撃の対象となる例もある。
オーストリアでは今月に入って、キリスト教会堂の損傷、落書き、放火の被害が続いている。首都ウィーンの観光名所としても知られるカールス教会では4日の日曜未明、ファサード(建物の正面上部)や階段、十字架を持つ石像などにペンキが投げかけられ、壁には悪意ある落書きがされた。
ブレーゲンツ市の教会は入口付近が何者かに放火され、すぐに消し止められたものの扉などが焼けて損傷した。それ以前にも6カ所の教会で石像などの破損が見つかっている。理由の明確でないものが多いが、警察は「教会をターゲットにした行為であることは明らか」として警戒を強めている。
過去にシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)の損傷や、教会の備品や像の盗難はあったが、今回のように教会の建物が破壊されたり火を付けられたりしたことはなかった。相次ぐ事件に、教会側は監視カメラの設置を検討し始めたが、信徒からは「信仰と祈りの場で撮影はそぐわない」と反対する意見も出ている。
ヨーロッパでのキリスト教会への攻撃で知られた事例に、ブラックメタル(Black Metal)と呼ばれるロックバンドの一派によるものがある。速いテンポと唸り声のようなボーカルという音楽的特徴のほか、歌詞はサタニズム(悪魔崇拝)に傾倒して反キリストを強く打ち出したものが多い。ゲルマン選民思想やナチズムを掲げるものもある。
1990年代のノルウェーにおいて、ブラックメタルのミュージシャンたちが教会を次々と放火する事件が起き、後にメンバー同士の殺人事件にもつながっている。懲役21年の判決を受けた受刑者には、キリスト教を侵略宗教として敵視し、民族主義や北欧の神話を信奉する思想があったとされる。
無神論を含めて、相容れない思想や信仰を持つためにキリスト教に反感が示されることがあるのはもちろんだが、自分たちはキリスト教会に受け入れられていないとの思いから反発や抗議の行動を起こしている場合もある。一様ではない「クリスチャンフォビア」的な活動に対して、教会はどのように対応していくのか。キリスト教らしい答えが求められている。