2011年にコウベレックスから発売された日本語による南米の賛美アルバム『だから今日希望がある〜南米の新しい賛美歌』。その原曲のほとんどが収められたアルバムやMP3、賛美歌集があるのをご存知だろうか?
その1つは、米合同メソジスト教会の世界宣教局(GBGM:The General Board of Global Ministries)から2001年に出たアルバム『Tenemos Esperanza』と、翌年に出たその賛美歌集である。アルゼンチンやブラジル、キューバ、エルサルバドル、パラグアイ、プエルトリコ、メキシコ、ドミニカ共和国、ペルー、コスタリカなどから19曲が収められたこのアルバムは、何といってもラテンアメリカの音楽文化がとても豊かで、その特色を満喫できる。また、その音源は同教会の英文ウェブサイトで一部試聴できる。日本ではこれらのアルバムや歌集を買うことができないが、同教会の英文ウェブサイトで注文できる。
タイトル曲の「Tenemos Esperanza」は、『だから今日希望がある』では、3曲目「だから今日希望がある」と8曲目「希望と勇気にあふれ」に訳されている。この曲は、1997年に当時ブラジル宣教師だった日本基督教団の松本敏之牧師によっても紹介されている。
1976年から1983年まで独裁政権下、子どもたちが失踪し相次いで行方不明となったアルゼンチンで、1979年に作られたというこの賛美歌では、イエス・キリストの生涯のゆえに絶望のただ中に希望があるということが、タンゴのメロディで力強く歌われている。
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにあるマージョ広場では、「Madres de la Plaza de Mayo」(プラサ・デ・マージョの母たち)という団体が、1977年から今日に至るまで、失踪した自分たちの子らを返してほしいと大統領府の前で行進しているという。
この歌のスペイン語原版はユーチューブの動画でもいくつか観られる。その英訳の1つは、2003年にカナダのウィニペグで開かれたルーテル世界連盟(LWF)第10回総会の歌集「Agape: Songs of Hope and Reconciliation」(オックスフォード大学出版局、2003年)などにも掲載されている。
この歌は2006年にブラジルのポルト・アレグレで開かれた世界教会協議会(WCC)第9回総会や、ユーチューブの動画で観られるとおり、2010年に南アフリカのケープタウンで開かれた第3回ローザンヌ世界宣教会議でも歌われた。
もう1つのアルバムは、アルゼンチンの賛美歌作家で国際的な賛美歌指導者の1人でもあるパブロ・ソーサ(Pablo Sosa)氏のアルバム『éste es el Día/This Is the Day』である。米シカゴにあるキリスト教音楽出版社「GIA Publications」が2007年に発売し、その歌集やMP3なども販売されている。日本のアマゾンでも一部試聴および購入できる。現在でも日本で入手できる貴重な音源だ。
このアルバムでは、ピアノやギターに加えて、日本ではときどき駅前などの街頭で演奏を見かける「コンドルが飛んで行く」でおなじみの、アンデス山脈の先住民族によるチャランゴやサンポーニャ、ケーナなどの楽器や、バンドネオンを使ったタンゴなども使われている。
2009年9月の日本賛美歌学会第9回大会には、パブロ・ソーサ氏が招かれて南米の賛美歌指導が行われた。そのために編纂された日本賛美歌学会オリジナルの賛美歌集「おお、なんという恵みよ!」には、賛美歌学会会員による南米の賛美歌の日本語訳18曲が収録されている。だが、残念ながら現在ではこの賛美歌集は頒布を終了し、次の増刷の予定はないという。
その指導もあってか、『だから今日希望がある』に収録されている日本語の賛美は、原曲をかなり忠実に再現しており、両者と聴き比べると、日本語版がいかによくできているかがわかる。『だから今日希望がある』の収録曲「ときは今」(下に動画あり)の原曲「Este momento」は、GBGMとパブロ・ソーサ氏の両方のアルバムで収録されている。あえていま改めて原曲にこだわりたい人は、これらを聴いたり、歌集を読んでみてはいかがだろうか。
■「ときは今」(原曲:Este momento)