6月13日からTOHOシネマズ日劇1ほか全国ロードショーが始まる映画『ノア 約束の舟』のダーレン・アロノフスキー監督がこのほど来日した。今回の来日は、同監督の作品である映画『ファウンテン 永遠に続く愛』(2006年)で東京国際映画祭のために来日して以来7年半ぶり。
配給元のパラマウント・ピクチャーズ・ジャパンは、この映画は「世界最古にして最大の謎『ノアの箱舟』伝説を描く壮大なスペクタクル感動巨編」であるとしている。すでに米国をはじめ世界中で公開されて大きな反響を呼んでおり、日本が最後の公開となる。
日本公開ちょうど1カ月前の5月13日、午後7時からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)のスクリーン8で開かれたこの映画の完成披露試写会で、アロノフスキー監督は報道関係者を含む来場者に舞台挨拶を行い、「東京に戻ってきて本当にワクワクしている。これで4回目の来日だと思うが、『ファウンテン』以来だ。残念ながら『レスラー』や『ブラック・スワン』の時は来られなかったが、でも戻ってきて本当にワクワクしている」と述べた。
この映画でノアを演じる主役は、『インサイダー』『グラディエーター』『ビューティフル・マインド』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、ニュージーランド出身の俳優であるラッセル・クロウ。
また、ハリー・ポッターシリーズで英国映画テレビ芸術アカデミーから功労賞を受賞したエマ・ワトソンがイラ役を演じるほか、ナーマ役にジェニファー・コネリー、トバル・カイン役にレイ・ウィンストン、メトシェラ役にアンソニー・ホプキンス。そして、ローガン・ラーマンがハムを、またダグラス・ブースがセムを演じている。
アロノフスキー監督はこの映画に出てくる箱舟について、「ハトから動物のつがい、最初の虹、大洪水に至るまで、ノアの物語にある非常に多くの奇跡から、それらの世界をできるだけ多く造りたかった。だから、実物の箱舟を建造するという大掛かりな仕事を、ある森の前に大きく広がる野原でやった」と語った。
同監督はまた、会場からの質問に答え、映画化のきっかけについて、「私が聖書を見る時は、それが実際に起きたかどうかは問わない。私はそれを最も偉大な物語のうちのいくつかとしてみる。そしてその物語はユダヤ教やキリスト教の伝統のうちにある人たちだけのものではない。それはギリシャ神話のようにみんなのものである物語だ」と、自らの聖書観を語った。
アロノフスキー監督はさらに、「そしてその物語を神話としてみるならば、その詩的なものを受け止めて今日の世界に当てはめることができるだろう。おわかりになるかと思うが、この映画には創世記の詩的なものから霊感を受けたテーマがたくさんある。そして、それを通して、私たちは自らのことを少し学んでは、それについて考え、願わくば私たちが今どこにいるのかに気づくことができるだろう」と語った。
会場からはまた、「なぜ日本にウケるということにこだわっているのか?そして、今回、旧約聖書のノアというのは、日本人にはあまりなじみのないものだが、それで日本人を喜ばせられる自信、そういうものがどこにあるのか?」という質問が出された。
これに対し、アロノフスキー監督は、「まず一つ目は、私が大学時代、世界で最も不思議で興味深くワクワクする場所は東京だった。いつも東京から発信される建築やファッション、写真を見ていた。それは今もあまり変わっていない」と答えた。「映画を学ぶ学生だった私が好きな映画はいつも黒澤明の『用心棒』だった。気持ちが落ち込むといつも黒澤映画を見て、それで元気になった」
「『π(パイ)』は私が特に日本で非常に成功するといつも感じていた映画だ。部分的には、塚本晋也(監督)がその映画に大きな影響を与えた。彼の初期の映画が私はとても大好きだった。だからその『π(パイ)』という映画はオタクに関するもの。そういうわけで、私はそれをすることでとてもワクワクしていた。それ以来、私の映画はどれもここ日本でとても温かく受け入れられた」と、アロノフスキー監督は述べた。
また、「もう一つはノアの物語について。興味深いと思うのは、ここ日本においてさえも、人々はノアの物語についての認識をもっている。なぜならその象徴的表現がとても有名だからだ。でもそれを持っていない、ノアが自分たちの伝統の一部ではない人たちでさえも、みな洪水物語を持っている。だから、ここ日本であなたがたには洪水物語がある。中国には洪水物語がある。先住民族たちには洪水物語がある。マヤ族には洪水物語がある。世界のどこでも洪水物語がある」と述べた。
「そしてそれは、世界のあらゆる文化に洪水物語があることが私にはとても興味深いからだ。そしてそれは、水には信じられない破壊力とともに、信じられない再生の力があるからだ」と、同監督は付け加えた。
「私がこの映画を本当に実物のようにしたかったのは、感情的に、人々がその洪水につながりを見出せるだろうと思ったからだ」とアロノフスキー監督は結んだ。
試写会でのイベントでは、エマ・ワトソンに憧れる女優の河北麻友子が登場し、監督に花束を贈呈した。このイベントの直前に『ノア 約束の舟』を観たという河北は、「私はずっとニューヨークで生まれ育ったんですけど、ノアのストーリーはすごくなじみのある話で、この映画ならではの壮大なスケールと豪華なキャストと監督の素晴らしい演出に本当に圧倒されて、すごく感動しました」と語った。
午後7時30分ごろから行われた試写会では、約290人の観客席がこの映画を観ようと集まった観客でいっぱいとなった。
なお、この映画は創世記にあるノアの箱舟物語を逐語的に描写したものではなく、さまざまな脚色がなされている。とは言え、旧約聖書、とりわけ創世記の要素がふんだんに盛り込まれていることもあり、この映画が日本でどのように受け止められるのか、1カ月後の皮切りを前にその反響が注目されている。