東淀川のアパートから再び聖書学院に戻り、教師兼アドバイザーとして、男子寮の一室に住むようになった。
イースターが近づいたある日、選んだ復活の賛美のメロディーが難しく、音程が取れないで困り果てていたら、下の保育園室からオルガンが響いてきた。だれが弾いているか分からないまま下りていくと、最近保母として鹿児島から来た姉妹だった。彼女も口数が少ない女性で、それまで顔を合わせたことはあっても、一度も話したことはなかった。奏楽を頼むと、上手に弾きながら歌ってくれた。それが家内との最初の出会いだった。
実は生駒に来る以前に、彼女には将来を約束した人がおり、卒業と同時に結婚することになっていた。ところがいくら祈っても、祈れば祈るほど不安になる。夜を徹して祈るうち、婚約が神の御旨でないと確信した。紹介してくれた牧師にそのことを話すと、思い切り叱り飛ばされ、将来が祝福されないとさえ言われた。しかし牧師には分かってもらえなくても、内なる平安は川のようにその心を満たしていた。周囲の中傷や誤解もあり、苦しい思いも少なくなかったが、神が牧師夫人として召しておられるという確信は揺るがず、ますます祈りのうちに主を待ち望み、グレース愛児園の子どもたちのために心こめて働くようになっていた。その夜も、独習で覚えたオルガンに必死で取り組んでいたのだった。
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榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『天の虫けら』(マルコーシュ・パブリケーション)は、98年に出版された同師の自叙伝。高校生で洗礼を受けてから世界宣教に至るまでの、自身の信仰の歩みを振り返る。