【CJC=東京】シリア内戦の政治解決を目指す動きが活発化する中、キリスト教世界でも、カトリック信徒約12億人の頂点に立つフランシスコ教皇始め指導者の侵攻回避への声が強まっている。
教皇は9月1日の「昼の祈り」で、全世界の全ての人々から上がっているのは「平和を願う叫び」だとして、7日を平和のための「断食と祈りの日」とする宣言を行った。「人類のために平和の行動を示し、希望と平和の言葉を聞かせる必要がある」と言う教皇は、「9月7日、平和の女王マリアの誕生の前夜を、シリアと中東地域、全世界の平和のための断食と祈りの日として宣言することを決めた。また、諸キリスト教会の信者、諸宗教の信者、全ての善意の人々、一人一人にも、どのような形であれ、この趣旨に参加するよう招く」と語った。
この呼びかけに、世界の宗教指導者も同調した。「断食と祈りの日」には、世界協議会(WCC)のオラフ・フィクセ=トゥベイト総幹事、正教会の霊的最高指導者コンスタンチノープルのエキュメニカル総主教バルソロメオス1世が歓迎する声明を出した。シリアのイスラム教スンニ派トップ、アハマド・バドレディン・ハッスーン師も賛同するなど、他宗教からも同調の動きがあり、停戦と和解を促す「バチカン発」の動きが広がりを見せている。
教皇はツイッターで「戦争はもうやめよう」「望んでいるのは平和な世界だ」と訴え、8月29日、ヨルダンのアブドラ2世国王との会見では「対話と交渉が唯一の道」と確認。主要20カ国・地域(G20)首脳会議議長のウラジミール・プーチン・ロシア大統領にあてた書簡では、各国指導者に「不毛な虐殺」をやめるよう求めるなど、宗教指導者の域を超えた活動を展開している。
バチカン(ローマ教皇庁)「正義と平和評議会」次官のマリオ・トーゾ司教は9月2日、シリアへの軍事介入が「世界戦争につながりかねない」との懸念を表明。5日には、国務省外務局次官のドミニク・マンベルティ大司教が各国大使を集め、シリア内戦当事者の対話と国民和解、分裂回避、領土保全を目指すバチカンの外交方針を説明した。マンベルティ大司教は、各国大使への説明自体を、世界平和に対する教皇の懸念の「新たな表明」だとしている。
7日午後7時からバチカンのサンピエトロ広場で開かれた「断食と祈り」の集会は4時間に及んだが、参加した信者らは10万人を超えた。教皇は「暴力と戦争は決して平和をもたらさない」と訴えた。
教皇は「寛容と対話と和解こそが愛するシリアや中東、全世界において平和をもたらす言葉だ」と述べ、米国やシリア政府、反体制派のすべてに自制を促した。集会にはシリア人も参加し、シリア国旗を掲げた。
シリア内戦で教皇を始めとする教界指導者が積極的に発言している背景には、中東におけるキリスト者の現状についての危機感もある。
中東はイエス・キリストが生誕、受難、復活し、さらに使徒たちが活躍した地域であり、現在も各地にキリスト者が居住している。しかし独立を目指すパレスチナでの抗争は長く、トルコ東部からシリアへかけて広がったクルド紛争ではキリスト者が受ける危害も無視出来ない。さらにはイラクやシリアでは内戦を避けても戦火を逃れるキリスト者の脱出が起きている。