09年5月までに施行予定の裁判員制度を前に、日本の最高刑である「死刑」について考える機会を提供しようと、アムネスティ・インターナショナル日本(以下、アムネスティ)が26日、トークイベント「〜映画『私たちの幸せな時間』から考える〜罪をつぐなうとは何か」を東京都港区のスーパー・デラックスで開催した。来月14日に日本で公開予定の死刑囚を主人公にした韓国映画「私たちの幸せな時間」を題材に、3人のゲストを招いて様々な角度から死刑について議論した。約70人が集まった。
ゲストは月刊『創』編集長の篠田博之氏、作家の雨宮処凛氏、殺人事件被害者遺族・「Ocean−被害者と加害者の出会いを考える会」代表の原田正治氏。司会を務めたアムネスティの寺中誠事務局長が、死刑制度に関する疑問点や問題点について、各ゲストに意見を求めた。
意見は、現在の日本の死刑制度が加害者を含め被害者をも社会から切り離すような制度になっているのではないか、というテーマに集中した。実の弟を殺害され、加害者との文通を続けてきた原田氏は、死刑囚との面談が実際にはほとんど出来ないこと、また、加害者との対話を求める活動を始めたところ、いたずら電話などで活動を妨害された経験を挙げ、「(死刑制度は、)やはり弱者切り捨ての世界と私は考えています。すべて弱い者は崖の下に突き落とす。そして、ある意味でくさいものにふたをする。これが今の世界ではないか」と指摘。雨宮氏も、「本当にこれ(死刑制度)で何が解決するのか」と意見を述べた。
また、一般に「罪」の自覚が薄いと言われる加害者をどう考えるかという問いについては、「反省の形は人によって違うのでは」「対話などを通して初めて、そういう感情が芽生えてくるのでは」「(人によって)感じるところが違うのでは」などの意見があった。さらに、反省が見られないとして加害者に死刑を求め、被害者感情をあおるメディアの報道にも問題があるとの指摘も出た。
会場のスクリーンには、死刑執行場の映像が映し出され、実際の死刑がどのように行われるのかを紹介。世界の死刑制度に関する様々なデータを示して、大半の国では死刑制度が廃止、または執行されていないこと、死刑による犯罪抑止力はデータ上では確認できないことなどを説明した。
最後に寺中事務局長は、「(死刑制度は、)社会全体、世界全体の問題として捉えていかなければならない」と述べ、犯罪の社会的背景となる貧困や格差などの問題を含め、死刑を、広く人権問題として捉える必要があるとの考えを示した。