【CJC=東京】サウジアラビアの宗教政策責任者である「大ムフティー」アブドルアジズ・アール=アッシャイフが、アラビア半島にある全教会を破壊せよ、という「ファトワー(布告)」を出した。
アラブ語メディアは、大ムフティーをイスラム圏では最も影響力のある指導者としており、その人が、クウェートで教会建設を禁止出来るか、との国会議員の質問に答えるファトワーを発表した、と報じている。今後の教会建設は禁止されるべきであり、現存するキリスト教の礼拝場所は破壊されるべき、と判断したもの。
ドイツ、オーストリアのカトリック教会司教が3月23日、大ムフティーを厳しく批判する声明を相次いで発表した。湾岸地域に居住する外国人労働者数百万人の人権を否定するもので受け入れることは出来ないとしている。
ドイツ司教協議会議長のロベルト・ツォリッチ大司教は、大ムフティーが「信教の自由と多宗教の共存を尊重していない」とし、経済活動を支えている外国人労働者のことを無視している、と語った。「外国人労働者に開かれている教会が取り払われるなら、それは横面をはたくようなものだ」
湾岸のアラブ地域に居住するキリスト者は350万人以上と推定される。ほとんどがインドやフィリピンからのカトリック労働者だが、西側諸国の各派キリスト者も存在する。
サウジアラビアは、イスラム教以外の「祈りの家」を禁止しており、キリスト者は個人宅で、逮捕の危険を知りつつ祈っている。アラブ首長国、カタール、クウェート、バーレーン、オマーン、イエメンには少数派キリスト者のための教会が存在する。
サウジアラビアのアブドゥラ国王はオーストリアに宗教間対話のためのセンター建設計画を立てているが、同国の司教協議会は、今回の問題に関してサウジアラビアの公式な説明を求めている。
「大ムフティーがこのような重要なファトワーを、国王の承認なしに出せるはずはない。国王の努力によって進められている対話と、大ムフティーの行為との間には矛盾がある」と言う。
ロシア正教会在外教会部門の責任者イエゴリェスクのマルク大主教は20日、ファトワーへの懸念を声明で表明した。
同大主教は、インターファクス通信に、サウジアラビアの隣国は、錯綜した呼び掛けに驚かされることだろう、と語った。
湾岸地域には少数ながら正教徒も存在する。しかしモスクワ総主教座は、1991年までの旧ソ連時代にはほとんど声をあげなかったものの、ここへ来て世界中のキリスト者の権利擁護への声を強めている。
カトリック教会は、イスラム諸国に、この所、少数派キリスト者に、イスラム教徒が西側諸国で享受しているのと同等の信教の自由を与えるよう、働き掛けてきた。
アラブ首長国連合、オマーン、イエメンにあるカトリック教会を管理しているポール・ヒンダー司教は、カトリック系KNA通信に、今回のファトワーはサウジアラビアでは広く公開されてはいない、と語った。「心配なのは、そのような指示がある層には影響を与えることだ」と言う。