同会議には南北アメリカ、アジア、アフリカ、欧州および中東域から45名のキリスト者、ユダヤ人学者、神学者、学生らが参加し、「神の名による暴力?変遷する背景下におけるヨシュア記」というテーマで議論がなされた。
会議では、現代社会におけるヨシュア記の解釈や適用法に焦点が置かれ、「もしヨシュア記の御言葉が現代社会でそのまま適用されれば、危険な結末をもたらすことにつながる」と指摘された。 会議の開催期間中3日間にわたって、会議のための祈祷会も開催され、ヨシュア記の解釈学的、歴史的、現代的側面を考慮した講義と聖書勉強会も開催された。
これまでの歴史上において、征服や搾取の戦略を正当化するためにヨシュア記の御言葉を引用するという事例が見られてきた。16世紀にはヨシュア記の引用について神学的な議論がなされ、アメリカ大陸の植民地化およびカナン人の子孫の呪われた血統(創世記9章25節)に対する差別を正当化することにつながった。現在でもヨシュア記は一部キリスト者やユダヤ人学者によって、イスラエルのパレスチナ領土占領政策を正当化する根拠として用いられているという問題が残されている。
2008年スイスベルン州で開催された「約束の地」に関するWCCの神学会議において、「聖書は侵略や現代社会に生じる出来事を正当化するための単純な賛辞を述べるために用いられてはならない。イスラエル-パレスチナ紛争における『聖戦』を社会政治的、経済的、歴史的な枠組みを無視して正当化することがあってはならない」との結論が出されていた。
今回の会議においては、ヨシュア記の御言葉の解釈について、どのような背景からアプローチされるとき、その解釈が正当とされ得るのかが議論された。参加者らはヨシュア記の御言葉が正義を基盤に置いて解釈されるときに、正当化され得ることに同意した。
会議に参加したパレスチナのキリスト教徒は、ヨシュア記の解釈が「権力のある政党がパレスチナ領土を占領する政策を正当化するのに用いられてきた」ことによるイスラエル-パレスチナ和平にもたらしてきた問題を指摘し、「パレスチナのキリスト教徒は自らの土地からだけではなく、聖書の解釈によっても疎外化されてきた」と述べた。
同会議において聖書勉強会を導いたユダヤ教ラビのトヴィア・ベン・コリン博士は、さまざまな異なる社会的背景に暮らすすべての人々に対して、いかに聖書の御言葉が普遍的メッセージを伝えられるかについて「聖書の御言葉はどんな弾丸よりも強力です。弾丸は打ち放たれればどこかに飛んでいってしまいます。しかし聖書の御言葉は人々の内に働きかけ、人々の内を変革させる力を持っています」と述べた。
パレスチナのローマカトリック教会司祭でベツレヘム大学芸術科学学部学長を務めるジャマル・カデル博士は、「私たちは毎日のように暴力問題に直面しています。パレスチナ人は『約束の土地から排除する』という政策の下、半永久的な暴力問題に苦しみ続けています。この問題についてこの場で議論し、現状に対する問題意識を啓発することができたことに感謝します」と述べている。
会議では20世紀を代表するドイツ人の神学者ディードリッヒ・ボンヘッファーの聖書研究についても参照され、「聖書の御言葉は抑圧されている人々が解放され、活動的な使者となれるように解釈されるべきである」という結論が出された。